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“一部”にならない佐藤優樹 ~2019年の鞘師里保とわたし・番外編~

「2019年の鞘師里保とわたし」というシリーズは、その名の通り、鞘師の1年間の足跡をわたし自身の体験を交えながら振り返っていくものです。

当時を思い返すと書きたいことはたくさん出てくるのですが、あまりいろいろな方面へ手を伸ばすと収集がつかなくなってしまうため、できるだけ話の筋から外れすぎないようにと、取捨選択しながら書いています(それでもだいぶ脇道に逸れていますが 笑)。

今回の記事は「番外編」と題して、メインのパートには入らない話題を取り上げたいと思います。スピンオフの感覚で読んでいただけたら嬉しいです。時系列で言うと、ひなフェスのころにあたります。

ひなフェスについて書いた記事はこちら!

今回は鞘師には脇役に下がってもらいます。

代わりにこのお話の主人公になるのは、モーニング娘。'20の佐藤 優樹(さとう まさき)です。ひなフェスと鞘師里保にまつわる彼女のエピソードを通して、その苦悩と魅力について語っていきたいと思います。

 

“一部”にならない佐藤優樹

 ~目次~

 

 

1.佐藤優樹ってどんな人?

まずは、佐藤優樹のことを知らない方に向けて、彼女について紹介をしたいと思います。

すでに何回か書いていることですが、彼女は現役モーニング娘。のメンバーの中の、わたしの推しメンです。いつもは「まーちゃん」または「まー」と呼んでいるのですが、今回は「佐藤優樹」または「佐藤」という呼び名を用いることにします。本人は「佐藤」と呼ばれることを嫌がっている節があるので、心苦しいなと思いつつ……。

 

① 現役ハロプロ人気ナンバーワン

佐藤優樹モーニング娘。の10期メンバー。

現在のモーニング娘。さらにはハロー!プロジェクトにおいて、圧倒的な人気を誇っている、花方メンバーのひとりです。

佐藤のファンの特徴として興味深いのは、女性が多いことです。ハロプロは近年、女性から高い支持を獲得しており、コンサート会場では女性の姿を多く見かけます。

が、佐藤のファンはその傾向がより際立っています。イベントの客層やTwitter上での佐藤優樹関連のツイートを見たところ、彼女のファンは男性よりも女性の方が多そうに思われます。同性からの支持が、ハロプロ内での彼女の頭ひとつ抜けた人気に繋がっているのかもしれません。

佐藤はハロプロにおける人気面で、このように異質の存在感を放っているメンバーなのです。

 

② 加入当初は問題児!?

佐藤は、2011年におこなわれた『元気印』オーディションに合格し、同年9月29日、ファンの前にお披露目されました。まだ小学6年生のころのことでした。

このオーディションの応募総数は約6000人。合格して10期メンバーになれたのはわずか4人だったので、狭き門をくぐり抜けてモーニング娘。に加入したわけです。

と聞くと、佐藤のことを圧倒的なアイドル性や超絶スキルを持った、モーニング娘。愛に満ち溢れた少女だったと思う方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、実際はそうではありません。アイドル性はともかくとして、歌もダンスも未経験の素人加入。オーディションを受けた理由は、親に勧められたから。当時はモーニング娘。のメンバーも楽曲もなにひとつ知らないまま、グループの中に入っていったそうです。

そんなメンバーでも、殊勝に努力を重ねていくことで人気や実力を身につけていくのが、アイドルのサクセスストーリー。

佐藤もそのような道を歩んでいったのかと言うと、それもまた違います。佐藤は加入してからしばらくのあいだ、モーニング娘。での活動がお仕事であるという意識を持っておらず、習いごと感覚で日々を過ごしていたそうです。

彼女は、スタッフや先輩、はたまた同期からも叱られることが多かったそうです。独特な感性の持ち主である佐藤は、叱られても響かない、すぐにふざける、嘘を吐く、いたずらをする、悪いことをしても謝らない、わがままを言う、すぐにむくれるなど、かなり手のかかる子どもだったようです。

辻加護以来の問題児」

佐藤はいつしかそんな風に呼ばれるようになっていきます。

そんな彼女がどうして、圧倒的人気を誇る花方メンバーになれたのでしょうか?

 

③ 困ったちゃんはセンスの塊

徹底的に困ったちゃんな佐藤優樹でしたが、彼女は非凡なセンスの持ち主でした。

先ほど、彼女はモーニング娘。の活動を習いごと感覚で取り組んでいたと書きましたが、考えてみればこれはすごいことです。本人は習いごとのつもりでいたかもしれませんが、複雑な振り付けを覚え、ダイナミックなフォーメーション移動についていき、ちゃんと歌割も与えられていました(失敗を重ねながらではありましたけれども)。そして、コンサートを初めとしたさまざまな活動を、つまりは激務を、グループのメンバーの一員としてこなしていたのです。

佐藤のオーディション時のエピソードとしてよく語られるのが、合宿審査のとき、深夜に旅館で鬼ごっこをして遊んでいたことです。多くの候補者たちが寝る間を惜しんで歌やダンスの確認をしている中、彼女は全力で遊んでいたのです。これは佐藤の困ったちゃんエピソードの代表格なのですが、見方を変えると、ギリギリまで努力を重ねていた候補者たちを押し退けて、彼女は遊びながら余裕で合格したことになります。

こうした資質をもっていたからこそ、スタッフやメンバーたちは真剣に佐藤と向き合ってきたのではないかと思います。

佐藤の習いごとはただの習いごとではありません。モーニング娘。のメンバーとして光り輝くための英才教育です。彼女は天真爛漫に遊びながら、自らのもつ才能をベースに、モーニング娘。の活動を通してさまざまなものを吸収していき、着実に実力を蓄えていったのです。

 

気まぐれプリンセスの覚醒

佐藤がステージ上で放つ輝きは、次第に鮮烈なものへと変わっていきます。彼女はあるときからギアを上げ、覚醒を繰り返し、いまのポジションへと至る階段を上がっていくことになります。

そのタイミングがいつだったか、というのは明確に断言するのが難しいところですが、彼女自身は、2016年あたりからお仕事としてモーニング娘。の活動を捉えるようになったと語っています(お仕事なので、いたずらをしなくなったそうです 笑)。

モーニング娘。は2014年に道重さゆみが、2015年に鞘師里保が卒業します。絶対的リーダーと絶対的エースの不在。この危機とも言える事態を乗り越えるために、佐藤は2016年ごろから活動に対する意識を大きく変えていったのだとわたしは思います。

彼女はこの時期、モーニング娘。についての思索を深めていきます。

 

みにしげさん(道重)からメンバーひとりひとりがもらった一輪の薔薇の花を、みんなで花束にしたい。

やっさん(鞘師)が抜けた穴を埋めるのではなく、そこに木を伸ばしたい。

 

佐藤独特の言語感覚から生まれた、これらの一見変わった言葉は、不思議と胸を打ちます。

モーニング娘。のことを真剣に考え、自分にできることを見つけては真摯に打ち込み、愚直なまでに努力を重ねていくうちに、彼女がもともと持っていたセンスはステージ上で次々に花開いていったのでしょう。

 

⑤ 圧倒的な個の力

佐藤のパフォーマンスの魅力は、正確で細かいリズム取りと自由な発想力にあります。見せ場が来たら一瞬のうちにステージを自分の色で染める、不思議な魔力を自由に使いこなしてみせます。

ひとりだけ別の宇宙に存在しているのではないかと思われるほどの、圧倒的な個の力。我が道を往く大胆なオリジナリティー。奇抜ながらも瑞々しい感性。音楽のより奥深いところへ入りこんでゆこうとする探求心。

佐藤優樹がステージ上で見せるクリエイティブな才覚は、他の誰にも真似のできないものだと言えるでしょう。

今でも子どものころのようなちょっと困った天真爛漫さを残しながらも、ときに聞いている側がハッとさせられるような深い洞察に満ちた言葉を口にし、自分を大きく見せることなく悩みや迷いを率直にさらけ出し、ステージ上では圧巻のパフォーマンスを見せつける佐藤優樹。数多くのファンたちが愛してやまない彼女の特質は、こんなところにあるのだと思います。

 

 

2.ひなフェスの鞘師里保佐藤優樹

① 女王の帰還

舞台は2019年に移ります。

3月30日に幕張メッセで開催されたひなフェスで、かつての絶対的エース、鞘師里保が衝撃的な復活を果たしました。2015年12月31日にモーニング娘。を卒業して以来、3年3ヶ月ぶりにファンの前に姿を現したのです。

このひなフェスで鞘師里保は、現役メンバーの譜久村聖生田衣梨奈石田亜佑美佐藤優樹小田さくらとともに、『Only you』と『One・Two・Three』を披露します。さらに、新垣里沙道重さゆみモーニング娘。'19現役メンバー全員とともに『Fantasyが始まる』を披露します。

彼女たちの圧巻のステージに、幕張メッセは大いに沸き上がりました。

この日は鞘師にとってきっと特別なものになったことと思いますが、同時に、現役のハロプロメンバーたちにとっても、非常に印象深い1日になったのではないでしょうか。ハロプロのレジェンドである鞘師里保の復活に立ち会い、そのパフォーマンスを目の当たりにすることができたのですから(また、ここでは詳しく触れませんが、辻希美加護亜依のユニット、Wの復活という大きな出来事もありました)。

多くのメンバーが鞘師とのツーショット写真を撮りたがり、彼女の前には順番を待つメンバーの長い長い列ができたと言います。かくして、この日以降のハロプロメンバーのブログには、鞘師の写真が数多くアップされていくことになります。

 

② こんなサトーでも“一部”に見える?

佐藤優樹も、鞘師との写真を4月5日のブログに上げています。

鞘師と佐藤が抱き合う写真は、今でもファンから深く愛されています。これは道重さゆみが撮影したものだそうです。

ところで、このブログでわたしは気になる言葉に出会いました。引用します。

やっさんがステージに立つと。

 


こんなサトーでも

 


一部に見えるといいますか。

 


お願い…みんなわかって…

「やっさん」というのは、佐藤が用いる鞘師の呼び名です。

この言葉を裏返せば、彼女は普段の自分はグループの「一部」になれていないと感じているということになります。ここにわたしは引っかかりました。佐藤がここに書いている「一部」とは、いったいどういう意味なのでしょうか?

 

③ 元エースは今なお絶対的エース

わたしはこの言葉を「普段はステージで浮いてしまっているサトーでも、やっさんがいればステージの一部として溶け込んで見える」という意味に受け取りました。

ひなフェスのステージでの、鞘師をセンターに据えた9~11期メンバーの混成チームは、驚くほど座りがよく見えました。

佐藤優樹を含む9~11期の現役メンバーたちは、ハロプロの中ではベテランとされるキャリアを持っています。一癖も二癖もある個性とストイックな向上心を武器に、それぞれが長年をかけて自分の見せ方を確立しており、それぞれのやり方で観客を驚嘆させることのできる精鋭たちです。特定のエースポジションを置かない現在のモーニング娘。は、個性的なメンバーたちが各々の長所を活かし合い、おもちゃ箱のようにあの手この手でステージを彩っていくところに、魅力があると思います。

しかし、そこに鞘師が加わると、まるで強力な磁場が発生したかのようにステージが統率の取れたものに変化して見えてきます。こう言うと語弊があるかもしれませんが、明確な核が生まれることで、パフォーマンス全体が鞘師里保のカラーに染まるのです。これは、鞘師のカリスマ性とハイレベルなパフォーマンススキルのなせる技でしょう。3年3ヶ月のブランクを経てもなお、鞘師里保は絶対的エースとしての存在感を失うことはなかったのです。

わたしはひなフェスのステージからそんな印象を受けていたので、佐藤のブログでの言葉を上述のように理解したのです。鞘師がステージの核を担うことによって「こんなサトーでも一部に見える」のだと、佐藤は感じたのかもしれません。

 

④ “期待を裏切らないみんなを引っ張る力”

佐藤はひなフェスから2ヶ月ほどが過ぎた2019年6月8日に、こんなブログを投稿しています。

これまで卒業を見届けてきたメンバーたちに思いを馳せながら、この年の春ツアーの武道館公演を振り返る内容です。ここで、佐藤は鞘師について、このように書いています。

やっさんの卒業


これはmasakiの勝手な妄想ですが…


メンバーみんなに変わって欲しいもっといろんな角度があるということを知って欲しいって言う


やっさんのモーニング娘。愛を感じた時


この時やっさんが感じてた抱えてた


期待を裏切らない


みんなを引っ張る力


の偉大さを


知った

佐藤が感じ取った、鞘師の熱い思いが綴られています。そして佐藤は、鞘師里保の持つ力をこのように言い表します。

「期待を裏切らないみんなを引っ張る力」

これは2015年の鞘師の卒業時を思い返して書かれたフレーズですが、佐藤はこの言葉を選びながら、つい2ヶ月前にひなフェスのステージで見た、鞘師の偉大な背中を瞼の裏に浮かべていたのではないかと、わたしには思われてなりません。

 

 

3.“一部”になれない佐藤優樹

① “他の人とは違う”魅力

それにしても、佐藤が「自分は一部になれていない」と感じ、そのことを気にしているのだとしたら、意外な気がします。それはわたしが、佐藤の圧倒的な個の力や大胆なオリジナリティーに魅力を感じてきたからです。

“他の人と違う”ことは、間違いなく佐藤の武器です。彼女の天真爛漫でユニークなキャラクターは、多くのファンから支持されています。そしてそれは、驚きと独自性に満ちたパフォーマンスの原動力であるはずです。

佐藤ほどオリジナリティー溢れるパフォーマンスができるメンバーならば、「観客は自分だけを見ていればいい」というような強いエゴを持っていても不思議ではありません。「一部」になれなくてなにが悪い! そんな風に思っていてもおかしくはないでしょう。

もちろん、ステージに立つ者としての我の強さや負けん気は人一倍強いはずです。しかし、上に挙げた彼女のブログの言葉を読むと、それだけではなさそうに思われてきます。

 

② “変わった子だねって言われるのは大嫌い”

佐藤は「tiny tiny」というYouTubeトーク番組に出演した際に、こんな発言をしています。

「優樹ちゃんてすごい不思議だね」とか「変わった子だね」って言われるの昔からだいっきらいだったんですけど、20才になって、もう今は恐怖症になっています。逆に。

言われたくなさすぎて、なんて言うんだろう、なんか、鳥肌が立つとまでは言わないんですけど、「あ、また言われちゃったな」みたいに。

――tiny tiny#98【2019年9月20日公開】よりhttps://youtu.be/STun1uDAfzg

彼女のファンの中で、この言葉にショックを受けた者はきっと少なくなかったでしょう。佐藤優樹という人物の他の誰とも違うユニークな個性を愛してきたのに、本人は“他の人と違う”と指摘されることに恐怖を抱いてきたというのです。佐藤のこれまでの発言や振る舞いからこういった思いを察してきた人もいたと思いますが、彼女がここまではっきりと自分の気持ちを吐露したのは、わたしの知る限り初めてのことでした。佐藤の心の奥にある孤独の縁が見えてくる、生々しい言葉です。

彼女は「一部」になれないことに、コンプレックスを感じてきたのかもしれません。そして、そのような自意識を持っているからこそ、鞘師里保といっしょにひなフェスのステージに立ったとき、自分が「一部」になれたことを喜ばしく思ったのかもしれません。

無論、ひなフェスのブログではステージについて、「tiny tiny」ではパーソナリティーについて語っているので、両者を安易に結びつけるのは早計です。しかし、“他の人と違う”ことを手放しによいものとしては見なさない彼女の価値観は、双方を貫いているものなのだと、わたしは思います。

 

 

4.チームプレイヤー佐藤優樹

① 21才の佐藤優樹

先日わたしはZepp DiverCityでおこなわれた佐藤優樹の21才のバースデーイベントに参加してきました。本来なら誕生日当日の5月7日にZepp Tokyoでおこなわれるはずだったイベントですが、コロナ禍の影響でいったん延期に。一時は「今年のバースデーイベントはできないかもしれない」と落胆しておりましたが、無事に8月26日に開催となったわけです。

21才の佐藤優樹はこれまでとは違う。

誕生日前後あたりに投稿された一連のブログを読んで、わたしはそのような印象を抱いていました。ここではそのひとつひとつについて詳しくは取り上げませんが、新型コロナウイルスの流行により活動が大幅に制限される中、彼女の感性はそうした状況に否応なく影響を受け、自粛期間を自分自身を見つめ直す時間として捉えて、今後どのように自分を変化させていくべきなのかという青写真を描き出していったように感じます。

そして、長い黒髪を茶色く染めて、バッサリと短く切り落とします。本人は「枝毛をなくすために切った」と発言しているようですが、この行動には彼女の心境の変化や今後に向けての決意が表れているように思われてなりません。

活動が再開されてからの佐藤のパフォーマンスは、以前とは質の異なるものであるとわたしは感じています。2020年のバースデーイベントでのパフォーマンスや言動にも、それは色濃く表れていました。この話題については語り出したらキリがないので、いつか別記事として書くかもしれません。

 

② 自粛期間の過ごし方

さて、わたしが参加したのはバースデーイベントの1部だったのですが、2部の方で佐藤は興味深い発言をしています。それは次のような内容でした。

  • 自粛期間中、春におこなわれるはずだったツアー「MOMM」のゲネプロの映像を見ていた。
  • 自分自身のパフォーマンスだけではなく、メンバーひとりひとりのソロアングルやマイク音源もフルで視聴したので、長時間を要した。
  • 他のメンバーの歌やダンスから、自分がうまく合わせられていないポイントを見つけ出し、どうすれば修正できるかを考えていった。

わたし自身がその場にいたわけではなく、Twitterのレポを繋ぎ合わせた情報なので、細かいニュアンスは違っているかもしれませんが、おおよそこのような内容だったようです。

ここで語られた佐藤のストイックな行動は、自分自身のパフォーマンスだけをよくするためのものではなく、グループ全体のパフォーマンスを向上させるためのものです。全体をよりよくするために自分はなにをしたらいいのか、ということに取り組んでいたのです。

このエピソードから見えてくるのは、佐藤のマインドがチームプレイヤーであることです。自身のパフォーマンスを「単品」として捉えているのではなく、グループの「一部」であると捉えているのでしょう。

 

モーニング娘。への愛

チームプレイへの意識は、佐藤に限らずモーニング娘。のどのメンバーも強く持っているものだと思います。それは、モーニング娘。が長い歴史をかけて、メンバーからメンバーへとたすきを繋いで受け継いできた哲学であり、現役メンバーたちが長い時間をかけて取り組んできたフォーメーションダンスに求められる技術でもあります。

佐藤のチームプレイへの志向性はおそらく、小学6年生のときからモーニング娘。で受けてきた教育によって育まれたものです。習いごと感覚で活動をしてきた佐藤は、モーニング娘。伝統のチームプレイの哲学と、フォーメーションダンスでの集合体としての見せ方を、文字通り素直に習い、自身の価値観へと内面化してきたのでしょう。

佐藤優樹は一見まわりの言葉に囚われず自由奔放に生きているようですが、完全なる一匹狼ではありません。彼女の中を貫いている価値観は、モーニング娘。への愛です。

だからこそ、個性の飛び抜けた自分がうまく「一部」になれないことを思い悩み、「一部」になってグループに貢献していきたいという気持ちが強いのだと思います。

佐藤は将来ソロの歌手になりたいとは思わないと語っています。また、自分が活動を続けてこられたのはモーニング娘。のメンバーたちに支えられてきたおかげであり、自分ひとりではやってこられなかっただろうとも言っています。

強烈な個の力を有する佐藤ですが、彼女がステージ上で見せたいものは、“佐藤優樹”という個人のパフォーマンスではなく、モーニング娘。というグループ全体の歌とダンス、そして音楽なのです。彼女が表現者として目指しているのは、間違いなくモーニング娘。の「一部」であることであり、そして、それによってモーニング娘。がより魅力的なグループになっていくことなのだと思います。

 

 

5.“一部”にならない佐藤優樹

① 名リーダー譜久村聖

佐藤のパフォーマンスに憧れていると公言するハロプロメンバーは少なくありません。

以前はよくコンサートのあとの反省会で、彼女は他のメンバーと違う動きをしていることをダメ出しされていたようです。しかし、グループの「一部」たらんと調整を繰り返してきた彼女のパフォーマンスは、今やひとつのスタイルとして他のメンバーから認められています。

ハロプロメンバーからもファンからも支持されている佐藤のパフォーマンスは、もはやモーニング娘。にはなくてはならないものになったと言えるでしょう。モーニング娘。は佐藤の独創性を武器にしているのです。

それを可能にした要因のひとつに、現リーダー譜久村聖の方針があったように思います。

譜久村は高橋愛のように自らが先陣を切ってグループを引っ張っていくタイプのリーダーではありません。いかにメンバーのよいところを引き出すか。それをどうやってモーニング娘。の魅力に繋げていくか。つまりは、いかにしてメンバーの個性を認めるか。

このメンバーの個を活かす視点が、彼女の持つリーダーとしての優れた特徴なのだと思います。そのために、譜久村は自分の目でもってメンバーひとりひとりの魅力を見定めてきたことでしょう。

譜久村は自由奔放な佐藤をどのように扱ったらいいのか悩んだ時期もあったようです。しかし、それでも接し方を模索しながら粘り強く彼女と向き合ってきたのでしょう。

そして今、譜久村は佐藤の個性をグループの彩りとして捉え、そのキャラクターとパフォーマンスをモーニング娘。の武器と見なしているように思われます。

 

② 多様性のフォーメーション

2020年1月にリリースされた『KOKORO & KARADA』でメインボーカルを任されているのは、譜久村聖佐藤優樹小田さくらの3人。

かつての鞘師里保のようなひとりのエースを置くのではなく、それぞれのメンバーのよいところを積極的に重ね合わせて、グループとしての魅力を形作っていく。これは“鞘師以後”という危機の時代を乗り越えて、モーニング娘。が辿り着いたひとつの答えです。メンバーの個性を解放し、その魅力の全てをグループとしての魅力に包み込んでいくのが、譜久村聖体制のグループの形です。

多様性のフォーメーションとでも呼びたくなるような今のモーニング娘。において、佐藤の独創性は見事にはまっています。

佐藤は、飛び抜けた個性によって「一部」になれないことを悩みながらも、グループの「一部」であろうと努力と試行錯誤を繰り返してきました。そして、モーニング娘。はメンバーたちの多様な個性をグループの「一部」として包み込み、尊重することで、その魅力を増幅させる方向へと進んできました。両者の置かれた状況がうまく重なり合ったことで、佐藤優樹の持つ特質は、モーニング娘。というグループにおいて最大限に発揮されるに至ったのです。

 

③ “一部”にならなくても“一部”でいられる場所

佐藤にとってモーニング娘。は、きっと特別な場所です。「変わった子」だと言われることに恐怖してきた佐藤ですが、メンバーたちといっしょにいるときのオフショットの彼女は、のびのびとしているように見えます。

これは完全に私見になるのですが、2017年前後の佐藤は、今に比べると硬い表情をしていた印象があります。彼女が人間的に成長し、周囲の人との関わり方を工夫していくにつれて、そしてパフォーマンスの評価が確立されるに従って、グループがリラックスできる場に変わっていったのかもしれません(対人関係についての彼女の洞察と知恵は、2020年のバースデーイベントでのお悩み相談のコーナーで、ファンが驚くほど存分に発揮されていました)。

後輩をはじめとした他のメンバーたちから、佐藤は尊敬され、愛されています。人から認められ、受け入れられることで、彼女の内面は穏やかさを取り戻していったようにわたしは思います。

「一部」になれないことについての佐藤の内なる憂鬱は消えたわけではなく、これからも持続していくものなのかもしれません。けれども、少なくとも外から見ている範囲では、彼女にとってモーニング娘。という居場所はそういったネガティブな思いを和らげてくれるもののように感じられます。

佐藤は「一部」になれない苦悩から目を背けずに努力を積み重ねてきたことによって、「一部」にならなくても「一部」でいられる場所を手に入れることができたのだと、わたしは思っています。

 

 

6.おわりに

佐藤優樹のファンの中には、彼女が容易に集団の「一部」になれずにいることにシンパシーを感じている人が少なくないように思います。周囲にうまく合わせることができず、だからと言って開き直って集団に背を向けることもできず、自分と他者との間に違和を抱えながら生きていく者は、社会の中に常に一定数存在するはずです。かく言うわたし自身も、そういったタイプの人間です。

そのようなメンタリティーを持つ者の目に、佐藤優樹の姿は非常に眩しく映ります。そして、強烈な憧れを引き起こします。彼女が周囲に迎合せず自分の道を貫いているところや、しっかりと結果を残しているところ、そして多くの人から認められて自分の居場所を作り出しているところ。そういった佐藤の魅力に触れるたびに「自分もこんな風になりたい」という思いを抱くのです。

佐藤はよく「努力」という言葉を口にします。彼女はなにもせずに今のポジションに辿り着いたわけではありません。モーニング娘。に相応しいメンバーになり、敬愛するつんく♂の楽曲を世の中に届けていくために、尋常ではない努力をしてきたことと思います。個としての独創性を磨きながらも、グループの「一部」としてモーニング娘。を高めていくという、矛盾を内包した険しい道を歩んできたことでしょう。

そして、決して現状に甘んじることのない彼女は、自分自身が思い描く理想形にさらに近づいていくために、今こうしている間も、さらなる努力に励んでいるはずです。

だから、佐藤優樹を見ていて思うのです。自分もがんばろう、と。うまく世の中に馴染めずにいる自分自身が抱える違和も、努力を重ねていけば輝きを放つことができるのではないか、と。

そして、身体に力がみなぎってくるのです。

 

ここまで長らく「佐藤」という呼び名を使って書いてきたのは、できるだけ中立的に佐藤優樹のことを語りたいと思っていたからなのですが、推しのバイアスを完全に取り払うことは難しかったです。

 

だから、最後に素直に叫びます。

 

 

まーちゃんは強さと勇気をくれる!!

 

 

わたしにとっての佐藤優樹の魅力は、このことに尽きるのです。