2019年の鞘師里保とわたし⑧ ~ロンドン編~
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~目次~
1.第二のホームへの凱旋
グラストンベリーの2日後の7月2日、BABYMETALはロンドンのO2 Academy Brixtonでライブをおこないます。
BABYMETALはイギリスを第二のホームと呼んでいます。
彼女たちの本格的な世界進出の足掛かりとなったのが、イギリスの地だったからです。
有名なソニスフィアの奇跡については、ここでは多くは語りません。
「BABYMETAL ソニスフィア」で検索すれば、あの感動的なライブのエピソードは山のように出てきます。
BABYMETALが世界から認められた瞬間と言っていい、大事件でした。
ソニスフィアに出演した2014年、BABYMETALはイギリスで他にも2回ライブをおこなっています。
その模様は『LIVE IN LONDON -BABYMETAL WORLD TOUR 2014-』という映像作品に収録されています。
このうちのひとつの会場がO2 Academy Brixtonでした。
BABYMETALのアンセムである『Road of Resistance』は、このとき初披露されました。
バンドにとって、新曲をどこで初披露するかというのは大切なポイントです。
メロディックスピードメタルの雄であるDragonForceのメンバーをプレイヤーに迎え入れてレコーディングされたメタルチューン『Road of Resistance』は、間違いなくBABYMETALの勝負曲であり、それまでのキャリアの総決算と言える作品でした。
BABYMETALはこの重要なマイルストーンを、日本ではなくイギリスの地に刻んだのです。
これはさらなる世界進出への意思表示であったはずです。
2019年に再びO2 Academy Brixtonでライブをすることは、BABYMETALにとってきっと特別な意味があったことと思います。
2014年のBABYMETALがソニスフィアを経てO2 Academy Brixtonのステージに立ったように、2019年のBABYMETALはグラストンベリーを経て同ステージに立つのです。
これは第二のホームへの凱旋であると同時に、アベンジャーズ体制のお披露目でもあります。
新生BABYMETALの新たな世界進出が、ここから始まるのです。
2.たまさんの朝は早い
確かこの日のBABYMETALのライブが始まったのは、日本時間で6時ごろだったと記憶しています。
わたしはいつも5時に起床し、6時前に電車に乗ります。
ですから、わたしがこの日のライブの情報をリアルタイムで追ったのは電車のなかでした。
幸い、ファンカムを生配信してくれる現地のメイトがいました。
確か2階席からの映像でした。
グラストンベリーと同じく『メギツネ』で始まったこのライブ。
SU-METALとMOAMETALとともにステージ上に現れたアベンジャーは、またしても鞘師里保でした。
グラストンベリーでは部屋で太ももを叩きながら大喜びしたわたしでしたが、この日は電車のなか。
何事もなかったかのように座席に座り、すました顔でスマホの画面を見るのみ。
落ち着こうと思えば落ち着いていられるじゃないか!
3.瞬間、心、重ねて
このときのパフォーマンスを見てわたしが感じたのは「SU-METAL、MOAMETAL、鞘師里保の3人がようやくひとつのグループになった!」ということ。
BABYMETALのステージに上がるにあたって、鞘師にどの程度準備期間が与えられていたのかはわかりませんが、すでに9年近く続いているグループのなかに入っていくことは、こちらの想像以上に大変なことだったろうと思います。
BABYMETALはBABYMETALの見せ方を確立しています。
鞘師たちアベンジャーズは、そんなBABYMETALの場に入っていくのです。
振り付けを覚えたりライブでの振る舞い方を学んだりすることに加えて、チームとしての呼吸であったり波長であったり、そういう形のないものも合わせていかねばならなかったはずです。
横浜アリーナやグラストンベリーでのSU-METALとMOAMETALと鞘師は、まだそこまで呼吸や波長を合わせきれていなかったような印象があります。
それに比べて、横浜アリーナ2日目の藤平華乃が踊るBABYMETALは、すでにある程度チーム感が感じられました。
これはブランクの有無からくる違いなのか、歩んできた道筋(流派)の違いによるものなのかはわかりません。
あるいは、わたしが鞘師ファンであるがゆえにフラットには見られなかった可能性もあります。
ともかく、BABYMETALと鞘師の組み合わせは異質なもの同士がぶつかり合うダイナミズムがあり、そこから新しいものが生み出されていくようなワクワクをわたしは感じていました。
しかし、O2 Academy Brixtonでの3人は、それまでとはイメージを一新し、ひとつのグループへと練り上げられているように見えました。
特にそれを感じたのは『シンコペーション』でした。
前奏のリズミカルでタイトなダンスは、3人が同じ方向を見据えてひたむきに走り出したかのようで、感動的な疾走感があります。
グラストンベリーの大舞台を乗り越えたことにより、3人それぞれの定める照準がシンクロしてきたのかもしれません。
これには鞘師の努力があったことはもちろんですが、BABYMETALの2人、とりわけMOAMETALの努力が大きかったはずです。
彼女はのちに、公演ごとにダンスの相方が変わることの難しさについて語っています。
スタイルの違う3人に合わせて踊ってみせた2019年のMOAMETALは、険しい道を進み、新たな発見と成長を繰り返してきたはずです。
今振り返って思うのは、このころはアベンジャーズの黎明期だったのだろうということ。
新しいBABYMETALの土台が、この時期に形作られていったのだろうと思います。