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【目次】 2019年の鞘師里保とわたし

2019年の鞘師里保の足跡を、わたし自身の体験談を交えながら綴っています。

 

 

2021年の振り返り

振り返ろうとしたところで、余りの情報量の多さと感情の激動っぷりに、冷静に全体を俯瞰するなんてとてもできそうにないけれども、それでも自分の中でとんでもなく大きな存在感を放ち続けることになるであろうこの2021年の暮れに、今の気持ちをなにかしらの言葉に残しておきたい。

 

2021年はBABYMETALが武道館10daysを完走してその活動を封印し、鞘師里保がソロアーティストとして音楽活動での再デビューを果たし、佐藤優樹が12月13日をもってモーニング娘。'21を卒業した年。

 

ここに名前を挙げたアーティストを、自分はそれぞれ別個のものとして推し始めた。

 

鞘師とまーちゃんは同じグループに所属していたとは言え、初めて知ったのは2016年の春。既に鞘師はモーニング娘。を卒業しており、リアルタイムでふたりが同じ場所に立っている場面を見ることはなかった。

 

それぞれ別個のものだったはずの3組の歩む道が、突然に交わったのが2019年のこと。長らくファンの前から姿を消していた鞘師が復活して、ひなフェスのステージでまーちゃんを含むモーニング娘。'19のメンバーたちと共演し、BABYMETALのサポートダンサー“アベンジャーズ”として世界を回った。

 

このときの自分の熱狂ぶりは、ちょっとどうかしていたと思う。夢みたいな存在だったレジェンド・鞘師里保の活動をリアルタイムで見られる日が突如訪れ、モーニング娘。とBABYMETALという大好きなグループと共演したのだから。

 

Twitterでヲタク活動用のアカウントを初めて作ったり、ブログを開設したり、そのブログの存在を忘れたり(そうですこのブログのことです)。要するに自分の中に湧いてくる感動を他のファンの人たちと共有したいと思うようになって、それ以来、ネット上やリアルの現場でいろんな方々と交流する機会を得た。それがとても楽しかった(ブログのことは忘れましたがね)。

 

鞘師は2020年にBABYMETALのステージを離れ、ソロ活動を開始した。初めに挙げた3組のアーティストの道が交わることは、これでしばらくはなくなるのかなと思った。

 

鞘師の活動の場は広がり、今年、待望のソロデビュー曲(1st EP『DAYBREAK』収録の5曲)をリリースし、初のワンマンライブが開催された。幸いなことにワンマンライブを現地で体験できたことは、自分の中で2021年のハイライトのひとつになった。

 

本来なら5月に行われるはずだったこのワンマンライブは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で8月に延期された。このことを今振り返って思うのは、もしも予定どおりに鞘師のライブが5月に開催されていたとしたら、2021年の後半はまったく違ったものになったかもしれない、ということ。そして、人が人に与える影響というのは、針の穴を通すようにして奇跡的に成り立つものなのだな、ということ。

 

なにが言いたいのかと言うと、それはもちろん、まーちゃんの卒業のこと。まーちゃんは卒業を発表した日のブログで、鞘師のライブが自分の決断に大きな影響を与えたことを明かした。

 

やっさんが、つんく♂さんやつんく♂さんの曲と離れて居ても
 
もう一度表にたってダンスをして歌っている姿を見て、
 
まー負けたくない!!!まーもやっさん
みたいにかっこよくなる!!!!って
 
自分の体のことを諦めていたけど
 
もう一度今のこの体と向き合おうと思えました。

 

https://ameblo.jp/morningmusume-10ki/entry-12699955987.html

 

思わぬところで鞘師の道とまーちゃんの道とが交わったことを、どんな気持ちで受け止めたらいいのか分からなかった。重さと濃さが生半可ではない。まーちゃんは鞘師のライブをきっかけに、自分の人生における大きな大きな決断を下したのだから。

 

まーちゃんは今年の2月の終わりに体調不良を理由に休養に入っていた。ファンとして、胸が痛かった。当たり前だけれどもなにもできない。それがもどかしかった。推しが苦しい思いをしていることを、なんとも思わず受け止められるファンなんていないはずだ。

 

2月から8月までの間、まーちゃんがどんな気持ちで過ごしていたかを、これも当たり前だけれども知ることはできない。ただ「自分の体のことを諦めていた」という言葉から、想像していたよりも遥かに追い詰められていたのだろうなと思う。

 

でもまーちゃんは、そんな逆境の中にあっても、前に進んだ。あのブログによると、鞘師のライブパフォーマンスがまーちゃんの心を支えた。

 

もしも鞘師のライブが5月に開催されていたとしたら。

 

そんな起こらなかったことを考えても仕方ないけれども、でもそうなっていたら、まーちゃんの苦しみがもっと大きなものになっていたのかもしれないというネガティブな思いは拭い切れない。タイミングが変われば、心のありようも変わる。だから、2021年に実際に起こった出来事は絶妙なバランスで成立していたんだなと感じる。まーちゃんの卒業に対しては、とんでもなく大きな寂しさを抱いたけれど、こうなってよかったなって思える未来に今いるのだと思う。

 

まーちゃんの卒業に対する思いや、これからの自分のまーちゃんの推し方(というか離れ方)については、なかなか心の整理がつかずにいるからここには書けない。2022年を終えるころには、どんな気持ちになっているんだろう?

 

先のことはびっくりするくらい分からない。なんとも不思議な感覚の中で、2021年は終わろうとしている。

 

ひとつ言えることは、推したちの未来が明るいものでありますように。強く強くそう願っています。

 

『黑世界 雨下の章』第3話「求めろ捧げろ待っていろ」感想【ネタバレ】

『黑世界』東京公演が無事に千穐楽を迎えました。めでたい! まだ大阪公演が残っていますが、コロナ禍を受けて作られたこのお芝居がひとまずの区切りまで完走できたことに、スタンディングオベーションの拍手を送りたいです。ほんとうによかった!

わたしは配信と劇場で雨下の章と日和の章をそれぞれ4回ずつ観劇し、何度も何度も大粒の涙を落としたのですが、この2作を通じていちばん心をもっていかれたのは雨下3話の「求めろ捧げろ待っていろ」でした。

記憶が鮮明なうちに、この作品の魅力について語ってみたいと思います。以下、ネタバレを含みますのでお気をつけください。改行を挟みまーす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目次

 

●お芝居の虚構性と繭期の幻覚

「求めろ捧げろ待っていろ」は、新良エツ子さん演じるチェリーによるイントロダクションに続いて、リリーの唐突な七五調の語りで幕を開きます。

既に日は暮れ魔の時刻

空も大地も茜に染まる

無情の鐘を背に受けて

運ぶ足取り軽やかに

あたしは一人今日もゆく

消えない幻 道連れに

終の棲家を探し求める

終わることない虚無の旅

がんばって配信のアーカイブを文字起こししました(笑)。少し違っていたらごめんなさい。

語の意味はシンプルですが、唐突な七五調はインパクト充分。時代がかった大袈裟な調べの気持ちよいこと。鞘師のクリーンボイスが朗々とセリフに乗り、よく映えて聞こえます。意味よりも調べや違和感を楽しむ場面ですが、最後の2行はリリーの旅の本意をうまく表しています。「終の棲家」=“死”を探し求めているけれども、それは「終わることない」、つまりリリーは不死であり、ゆえにこれは「虚無の旅」である、と。

このセリフはこれから上演されるお話の異質性を強調すると同時に、お芝居の虚構性を際立たせます。ただでさえこれは朗読劇。観客がステージ上に見ているのはキャラクターであるのと同時に、台本を手に持った役者でもあります。キャラクターは役者によって演じられる虚構の存在だという事実を常に突きつけられるわけです(普通ならキャラクターは台本を持ちませんから)。そこへこの突然の七五調の語り。写実を捨ててデフォルメに走った質感に、キャラクターやストーリーは仮初めのものに過ぎないことがさらに強調されます。漫画やアニメのオムニバスもので、写実的な作品が並んでいる中に、デフォルメたっぷりの戯画的な作品が挟み込まれるやつですね。チェリーの語りの「斑模様の乱れた心、まさしく繭期真っ盛り」という「ま」行の頭韻がいかにも虚構らしく聞こえてきます。

ところで、チェリーは冒頭のイントロダクションで、「深い繭期の中では、何が現実で何が妄想なのか区別がつかない」と言っています。上に書いた通り、観客は終始お芝居の虚構性を意識させられているわけですが、それはリリーにとっても同じこと。このお話の中で体験する出来事を、リリーは現実なのか妄想(=虚構)なのか区別がついていないのです。つまり、ここでは観客が感じている違和感とリリーが感じている違和感とがシンクロしているわけです。よくできている! 

ここから、まるでリリーが薬物をキメてグッドトリップしているかのような躁的な世界観が、ステージ上で繰り広げられていきます。

 

●雷山登場

山中を進むリリーの前に、「この道は引き返した方が身のためだ」と言いながら池岡亮介さん演じるイケメンが現れます。彼の名は雷山(ライザン)。のちに人間のヴァンパイア・ハンターであることが明かされます。やたらとテンションが高く(というか気持ち悪く)、煽情的な言動を繰り返します。例えば乳首を見せつけてくるとか。いかにも妄想っぽい!

そもそもヴァンパイア・ハンターならリリーがヴァンプであることに気づきそうなものですが、雷山はそんな素振りをまったく見せません。これもいかにも妄想っぽい!

雷山が言うには、この山には繭期のヴァンプが迷いこんでいる、と。だからリリーに下山するよう忠告します。そして彼はとある女性を探していることを明かし、その場をあとにします。

 

●マルグリット登場

彼が去ると雨が降ってきます。雨に足止めされたリリーは木の下で雨宿りをすることにします。そこへ「そこにいるのはどちらさん?」というセリフと共に、一人の女性が現れます。中尾ミエさん演じるマルグリットです。

「マルグリット」という名を英語読みすれば『LILIUM』に登場した「マーガレット」になります。マルグリットはマーガレットに負けないほどの妄想癖の持ち主ですが、それについては後述。

ところで、このお話の登場人物はみな七五調で語るのですが、マルグリットは定型から外れた自然に近い喋り方をします(セリフ自体は七五調ですが、そこまで時代がかった節回しを使わない、と言うのが正確なところでしょうか)。かすかに虚構性を奥へ潜ませてリアリティーを浮き上がらせるおもしろい仕掛けです。しかも、マルグリットを演じるのはベテランの中尾ミエさん。説得力のある熱演には“ほんとらしさ”が滲んでいます。このようにして虚実が入り乱れていくさまが、この幕のおもしろさだと言えるでしょう。

さて、このマルグリット。夫に先立たれた未亡人である彼女は、この山で人を待っているのだと言います。よく見ると彼女の身体は血に濡れています。マルグリットは自らの生き血で繭期のヴァンプを誘き出そうとしているのです。「集まれ! 集まれ! 集まりなさ~い!」マルグリットはそう叫び、手に持ったナイフで自分の身体を切りつけていきます。戸惑うリリーとチェリー。

 

●雷山とマルグリット

そこへ、先ほどの雷山が姿を現します。

マルグリット「雷山! 来てくれると信じていたわ」

雷山が探していた女性とは、このマルグリットのことだったのです。リリーの「雷山、そしてマルグリット、詳しく話を聞かせてちょうだい」という語りに、チェリーは「正気? 本気? あたし全然聞きたくない」と返します。しかし、リリーは語りを続けます。「あたし全然聞きたいわ。自らを切り刻む女と、彼女にそうさせる美少年。二人の出会いと生き様に、一体なにがあったのか!?」この言葉が曲振りとなって、二人の歌う曲が始まります(この辺りのセリフの応酬はテンポがよく小気味がいいです)。

「〽️雷山イズエクセレント、ヴァンパイア・ハンター」

この歌で明らかになるのは次のような内容。雷山はヴァンパイア・ハンターとして町の人気者となり、ギルドの中でも出世株となりますが、終わることのないヴァンプとの戦いに疲れ果て、剣を捨てたくなります。

しかし、マルグリットは「〽️引退なんてさせないわ。ヴァンプを殺すのがあなたの使命」と呪詛のように歌いかけます。

二人が初めて出会ったのは数年前のこと。マルグリットはヴァンプに襲われ万事休すというところを、雷山に助けられます。その華麗な剣さばきに魅せられたマルグリットは「〽️あたしのハートはズタズタよ」「〽️もっと殺してヴァンプ、もっと守ってあたしたち」と歌います。

この世界ではヴァンプ狩りはエンターテインメントで、ヴァンパイア・ハンターはスーパーアイドル。マルグリットの寄行はすべて推しの雷山に会うためのもの。

雷山はヴァンパイア・ハンターを引退したいと思っているものの、マルグリットの思惑にまんまとはまり、意に反してヴァンプ狩りをさせ続けられます。生粋のヴァンパイア・ハンターである彼は助けを呼ぶ声には抗えないのです。

「もうたくさんだ! 剣を捨てたい! 引退したい! 吸血種なんて殺したくない!」そう喚く雷山に対し、マルグリットは「あの日のあなたをもう一度。あの日のあたしをもう一度。あの日のあたしたちを、永遠に!」と盛り上がりまくっています。もうめちゃくちゃ!

 

●雷山の戦い

ここでリリーがステージ前方に飛び出してきて、ハイテンションで「よく見ると繁みの中に、吸血種、吸血種、吸血種!」とたたみかけます。夢か現か定かではないお話に、リリーも一緒になって高揚していくのです。繁みに潜んでいるヴァンプの余りの多さにリリーは気づきます。「まさか、クランから逃げてきた?」すべてはマルグリットの思惑通り。彼女は近くのクランの門を開放し、おびただしい数の繭期のヴァンプたちを野に放ったのです。「すべては雷山、あなたに会うためよ」雷山、絶体絶命! 全部マルグリットのせい!

ヴァンパイア・ハンターの悲しき性から逃げ出せない雷山は、「引退したい! 剣を捨てたい!」と地べたに這いつくばってジタバタしながらも、結局は正々堂々とヴァンプと戦うことになります。リリーとチェリーは語ります。「吸血種は相手を噛むことでイニシアチブを握る。でもマルグリットは生き血を捧げることで雷山の行動を支配している。彼はもうマルグリットからは逃げられない!」よくこんな無茶苦茶な話を考えるなぁ。

華麗にヴァンプを切って捨てていく雷山と、自分の身体をナイフで刻み、恍惚の表情で「エクスタシー!」と叫ぶマルグリット。リリーとチェリーは叫びます。「我々は一体、何を見せられているのか!」と。観客の代弁。もっともなセリフ。この場面のリリーとチェリーの七五調の語りはスポーツ中継の実況のような、力の入ったもの。まるで二人のハイテンションな語りによって狂気がエスカレートしていくかのようです。

一人のヴァンプがマルグリットに襲いかかり、万事休すというところを雷山が救う様子が、この場面の盛り上がりのピークとして描かれます(でも過剰にバカバカしさが強調されているので緊迫感はゼロ)。

雷山「吸血種め、俺のマルグリットから離れろ!」

マルグリット「また守ってくれた。嬉しいわ、雷山」

まったくもって、我々は何を見せられているのやら。

 

●マルグリットの死

マルグリットは雷山への思いが高まりに高まった挙げ句、「もっと血が必要よ」と、最後には自らのナイフによって絶命してしまいます。「真っ赤な生き血の雨が降る」とリリーの鮮烈な語りが場を盛り上げます。

このマルグリットの死は、好きなアイドルを推すために身銭を切りすぎて身を滅ぼしてしまうオタクの姿を重ね合わせているのでしょう。わたくし、気をつけます!

そして雷山も、引退したいにも関わらずファンの思いに縛られて活動を続けざるを得ないアイドルの姿を重ねたキャラクターなのでしょう。みんなが不幸。

それを元モーニング娘。の鞘師が主演を張るお芝居でやるという不謹慎さも、作り手が狙ったおもしろさなのだと思います(こう書いてしまうと、ちっともおもしろくなくなる人もいるでしょうけれども)。すべてが過剰でなんでもありの世界!

さて「みんなが不幸」と書きましたが、これはあくまでも客観的な視点。お芝居の中では徒花のような退廃美でもって描かれます。マルグリットの死に顔は穏やかなものだったようです。推しへの思いとそのエクスタシーに駆られての死は、それはもう幸せなものだったでしょう。

返り血を浴びて佇む雷山。「それでも彼は美しかった!」と語るチェリー。歌舞伎や大衆演劇であれば見栄を切る場面でしょう。そしてリリーは雷山に、これでもうマルグリットに縛られることはないと言います。雷山の返事は「まだだ。まだなんだ」というもの。シリアスな場面ですが、バカバカしさが売りのお芝居なので、ここで日替わり物真似ネタが挟み込まれるなどして、観客はちっともシリアスな気持ちになれません。

そのとき、たくさんの女性たちが山を駆け上がってきます。「もっと殺して吸血種、もっと守ってあたしたち」と叫びながら。雷山を推す女性はマルグリットだけではなかった、というオチ。

 

●スーパーアイドル雷山

ここで雷山がアイドルばりに歌って踊ります。というか、実際に彼は多くの女性たちのアイドルなのです。そりゃあ男性アイドルソングを歌いますよ。当然です。

「〽️町中の、国中の、世界中の女、女、女、女たちが俺を心から求めている」

いやあ、こわい! 新良エツ子さんの高音コーラスにゾクゾクします。

リリーとチェリーは雷山のバックダンサーを務めます。この曲は『黑世界』の中でもかなり激しめのもので、鞘師のダンスを楽しめるポイントでもあります。雷山をセンターに置き、そのサイドでバキバキと踊るリリーとチェリー。なんだか既視感があります。そう、これはBABYMETALのアベンジャーズとして鞘師が踊っていたときのフォーメーションなのです。作り手の意図は分かりませんが、アベンジャーズを意識したものなのでは?と、わたしは思いました。実際のところはどうなのでしょう?

 

●繭期の幻だといいんだけど

山を登ってきた女性たちのために、雷山は本心を欺きながらヴァンパイア・ハンターを続けていく、というところでこの幕は終わりへと向かいます。

「それは恐怖と絶望、そして悲しみ。いいや、違う! これぞまさしくエクスタシー!」と語る鞘師里保は絶好調。お見事です。

「さあ女たちよ、待っていろ、いま雷山がいくぞー!!」と雷山はアイドルモード全開でその場を去っていきます。

二人残されるリリーとチェリー。「あんたも彼に救ってもらう?」と問うチェリーに、リリーは「残念だけど、誰にもあたしは救えないわ」と返します。リリーを救うことができるのは死だけなのです。

最後に、リリーが「ここであったことすべて、繭期の幻だといいんだけど」とクールに語り終え、本をポンと閉じると同時に暗転。台本を閉じればこの虚構はすべておしまい、というきれいな終わり方です。そして『黑世界』はもとのシリアスなお芝居へと戻っていくのです。

お芝居を通じて続けられる、この虚構性の誇張が魅力的です。夢か現か分からないままのリリーと観客。まるで観客も繭期になってしまったかのような体験を味わえるわけです。

仮にこれがリリーの幻覚なのだとしたら? 繭期は人間でいうところの思春期。そんな年ごろの子がアイドルについて妄想するというのはあり得そうな話ですが、リリーは不老不死の世界を生きています。言ってみれば、思春期の妄想が延々と続いていくわけです。そんな想像を絶した規模の妄想であるならば、普通のアイドルへの憧れだけでは終わらず、こんなはちゃめちゃな奇想を膨らませるところにまでいってしまうのかもしれません。ちょっと味わってみたい……。

なんにせよ、この幕のすごいなと思うところは、奇想天外で笑いを誘う内容であるにも関わらず、TRUMPシリーズの世界観と矛盾なく成立しているところです。むしろ繭期というものをうまく表現していると言えるでしょう。ちゃんと説得力があるように作られているのです。そして、朗読劇という役者が台本を持って演じるお芝居の特性もうまく活かしています。

さらに、気づいたらスーパーアイドル雷山にハマっている、というオマケつき。中毒性がヤバい!

 

といったあたりで、おしまい

 

 

 

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『黑世界 日和の章』とりあえずの雑感【ネタバレ】

いよいよ始まりました、『黑世界』!!

このような社会情勢の中で、よくぞ短期間で2公演分のお芝居を作り上げて、上演にこぎ着けてくださりました!

関係者には並々ならぬ努力があったことでしょう。尊敬します。

 

とりあえずの雑感をここに書き殴りたいと思います。

雨下と日和のうち感想を掴みやすかったのは日和の章だったので、そちらについて。

雨下の章はもう何度か観てみないと語れないように思います。

 

ネタバレをたぶんに含みますので、まだ観ていなくてこれから観劇を予定されている方はここから先は読まないでくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目次

 

 

1.朗読劇の性質

『黑世界』は新型コロナウイルスの感染対策として、これまでのTRUMPシリーズとは異なり朗読劇という形で作られています。役者同士はソーシャルディスタンスを保ったまま、本を手に持って自分の演じる登場人物のセリフや地の文を語っていきます。これが思いの外おもしろい!!

演劇というものは、役者という実在の人物が登場人物を演じることで、現実と虚構とが入り交じった場が生み出されるのが特徴だと思います。観客は役者のホンモノの身体を通して、架空の人物の身体を見ているわけです。身体が実物だからこそ、より虚構性が見えやすいのだと言えます。

『黑世界』は朗読劇という形を取ることで、よりその特徴が際立っていた印象を受けました。冒頭で紫蘭と竜胆がセリフを言うシーンで、初め男性の役者が役を引き受けようと名乗り出ますが、MIOとYAEが遮って自分たちが役に相応しいと役を演じることになります。普通の芝居なら初めから紫蘭と竜胆になりきって演じるところを、舞台上で「わたしたちが演じます」と役者として宣言をしてから演じ始める。本来なら舞台裏でおこなわれるはずの、MIOとYAEという役者が役に入り込んでいく過程を、観客は見せられているわけです。

また、役者たちは登場人物として舞台上を動き、話し、歌い踊るわけですが、セリフのパートでは本を手にしたままです。これによって、どれだけ役者が役に入り込んでいようとも、これはあくまでも実在の役者によって作られた世界なのだということが強調され続けます。

少し乱暴な言い方をすると、ここでは役者は交換可能な存在です。実際、紫蘭と竜胆は先に書いた通り、役者が交代しています。あくまでも本を持ってその人物のセリフを喋っているだけですから、役者は暫定的に役を演じているだけの交換可能な存在なのです。

この現実と虚構の入り交じった世界観が、見ていて不思議な感覚を醸し出していました。おもしろい。

 

2.リリーはリリー

しかし、例外がいます。それはリリーです。TRUMPシリーズにリリーが登場するのはこれが2回目。前回演じたのは今回と同じく鞘師里保でした。前作を見ている人からすれば、リリーの身体と鞘師の身体は、ほぼイコールで結びついています。ですから、リリーが登場する芝居で鞘師が紫蘭や竜胆を演じるのはありえない。また、鞘師が板の上のいる限り、他の役者がリリーを演じることもありえない。このように鞘師=リリーはこの芝居において交換不可能な存在です。リリーは他の登場人物とは、本質的に違う存在なのです。これは、前作から6年を経ても当時の少女性を保ったままでいる鞘師という役者の持つ特質によって、違和感なく観客に受け入れられています。このことは『黑世界』という芝居の世界観の核となる部分だと思います。

 

3.朴璐美の身体と少女の身体

しかし、この特質を持つ役がリリーだけなのか?というと、そうではないとわたしは思います。例えば、朴璐美が演じた少女。初めは交換可能な役でしたが、物語が進むにつれてそうではなくなっていきます。

(1回観ただけじゃ登場人物の名前を覚えられない人なので、名前じゃなく「少女」と書きますね)

物語の初めに少女が登場したとき、彼女はまだ子どもでした。年齢を覚えていなくて申し訳ないのですが、確か一桁だったはず。演じる朴璐美は48才。普通なら小さな子どもを演じるのは無理があるのですが、これは朗読劇。役者は交換可能な存在で、あくまでもセリフを読んでいるだけなので、この無理のある設定は「有り」になります。しかも、それをセリフの中でネタにしていました。初めは笑いを誘うおもしろいセリフかと受け止めていましたが、これはあとになってから効いてくる仕掛けでした。声優としてさまざまな年齢・性別のキャラを演じることのできる朴璐美の特質によって、声を聞いている限りでは違和感がないのも絶妙なラインでリアリティーが保たれていておもしろかったです。

物語が進むにつれて少女は年を取っていき、最後には老婆になります。言わば、役が朴璐美に追いつき、追い越していくわけです。その過程で、少女の身体と朴璐美の身体とが、次第に一致していく。初めは交換可能だった役が、いつの間にか交換不可能なものへと変わっていくのです。

この変化が行き着いた先で、リリーと少女の物語は山場に差し掛かります。そして、観客は作り手の思惑通りにまんまと感情移入し、感動させられるわけです。うまい! よくできている! これは朗読劇だからこそ成り立つ仕掛けでした。

めちゃくちゃおもしろいと思いました。

 

3.リリーの母性と誕生

さて、我らがリリーです。

『黑世界』では闇落ちしたダークリリーが見られるのではないかと想像していたのですが、リリーはリリーのままでした。まっすぐな少女のまま。これは鞘師の持つ雰囲気と重なって、観客に自然に受け入れられます。

そして、まさかリリーの母性を見せつけられるとは!! 鞘師のことを「ママ」って呼ぶってヤバいよね(気持ち悪いヲタクの感想)。

また、リリーは物語の中盤で岩盤に押し潰され、川を通り海へ行き着いて身体を再生させます。この場面の鞘師の演技は溜飲モノ。素晴らしかったです。この場面、羊水の中から産道を通って生まれるという出産のメタファーです(ベタっちゃベタ)。リリーはここで生まれ直したわけです。不死のリリーがいったん死んで生まれ直したという見立てが成り立つのおもしろい。そして、まさかベビーリリーが見られるとは。ベビーメタルからのベビーリリー。はい、何言ってるかわかりません。

ともかく、リリーの愛と無垢が強調されていて、これは闇落ちしまくりだったソフィとの対比でしょう。わたしはリリーとソフィとは光と影のような対になる存在だと仮定してちるので、「なるほどな」というところでした。今抱ける感想はこんなところです。今後ふたりが辿る展開が楽しみ。  

 

4.おしまい

といったところで雑感おしまい。

これから何度か観ていく中で他にも感想はたくさん出てきそうです。おもしろそうなことを思いついたらまた書こうかと思います。

みなさまよき『黑世界』ライフを!

 

 

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2019年の鞘師里保とわたし⑨ ~ポートメッセなごや編~

前回の記事はこちら!

 

~目次~

 

 

1.自分の名前を売るよりも大切なこと

イギリスから帰国したBABYMETALは、7月6日、7日に、ポートメッセなごやで「BABYMETAL ARISES - BEYOND THE MOON - LEGEND - M -」と題した2days公演をおこないます。

「LEGEND - M -」の「M」はMOAMETALのイニシャルから取られています。

彼女の誕生日は1999年7月4日。

この2公演は、MOAMETALの20才の生誕記念&地元名古屋への凱旋ライブでした。

めでたい!(*^▽^*)

 

結論を先に書くと、この2日間のアベンジャーズは初日が鞘師里保、2日目は藤平華乃でした。

第3のアベンジャー降臨を期待する声もありましたが、蓋を開けてみれば横浜アリーナと同じラインナップとなったわけです。

 

ここで横浜アリーナからポートメッセなごやまでのスケジュールと出演したアベンジャーを振り返ってみたいと思います。

 

 

いやあ、鞘師さんよく働いた!!

 

ほんの1週間ちょっとですが、きっと中身の濃い時間を過ごしただろうと思います。

鞘師がこのときどんなことを感じていたのか、いつか語ってもらいたいです。

3月にひなフェスの目玉として復帰を果たした彼女が、次にどんな展開を見せてくるのか注目していた人は多かったはずです。

次のキャリアのための非常に大切なタイミングで、名前を伏せてサポートダンサーとしての活動を選んだのは、鞘師らしい決断だったように思います。

自分の名前を売ることよりも、人との繋がりや直感による決断を大切にしたのでしょう。

結果的にこの選択により、鞘師はBABYMETALのファンのあいだで、広く認知されることになります。

もっと広い層にアピールできる活動も選択肢としてはありえたはずですが、持続的な熱を持ったコア層に支持されたことで、決して使い捨てられることのない認知を鞘師はこのとき得ることができたのではないかと、わたしは思います。

素晴らしく鮮烈なデビューでした。

 

 

2.鞘師のフォーメーションダンス

この名古屋公演初日のフィナーレで、鞘師は粋な計らいを見せています。

 

MOAMETALと鞘師とでSU-METALを挟んだお馴染みの立ち位置で、SU-METALがこの日の主役であるMOAMETALにマイクを向けて「We are?」「BABYMETAL!!」というコールアンドレスポンスを言わせます。

そのとき、鞘師は2人の背後を移動して、SU-METALと自分とでMOAMETALを挟んだのです。主役のMOAMETALをセンターにするために。

 

 鞘 S M

     ↓

   S M 鞘

 

翌日の藤平華乃はこれをしていなかったので、おそらく鞘師のその場の判断によるものだったのでしょう。

 

BABYMETALの様式美の中にいる人たちからは出てくることのなさそうなこの行動に、わたしはこんなことを思いました。

 

これぞモーニング娘。のフォーメーションダンス!!

 

鞘師が在籍していたころのモーニング娘。は、フォーメーションダンスを売りにし始めたときでした。

フォーメーションダンスは、メンバー全員で隊列を作り、曲の展開に合わせてその形を大胆に変化させていく集団芸です。

この隊列でもっとも多くセンターを任されていたメンバーが、エース鞘師里保でした。

 

「エース」や「センター」と聞くと、その人の才能やカリスマ性ばかりを連想しがちですけれど、モーニング娘。的な考え方をすれば、センターとは他のメンバーたちが両翼にフォーメーションを形作ることによって生まれるものだと言えます。

センターはひとりが務めるものではなく、みんなで作り出すもの。

エース鞘師里保は、そのことをよくわかっていたはずです。

だから、名古屋での鞘師は咄嗟に、MOAMETALがセンターとなるようにフォーメーション移動をすることができたのだと思います。

 

しかも、このときの鞘師が絶妙だったのは、MOAMETALが1回目の「We are?」を言い終わるのを待ってから動き始めたことです。

先走って移動してしまうと、MOAMETALの見せ場にノイズを走らせることになります。

鞘師はMOAMETALの見せ場と見せ場のあいだの一瞬を突くようにして、件の動きを見せています。

ここには、その瞬間に主役となるメンバーを輝かせるための、フォーメーションダンスの技術があったのです。

モーニング娘。で培い、身体に染み込ませてきた技をBABYMETALのステージで見せてくれたことに、わたしは感動したのです。

 

やっぱりこの人は鞘師里保なんだ!と。

 

 

3.序章の終わり

こうして、BABYMETALは新体制お披露目のための最初のツアーを締め括りました。

(ツアーとして告知されていたわけではありませんが、実質ツアーのような位置づけだったはずです)

 

このツアーは「日はまた昇る」と題した横浜アリーナ公演から始まったわけですが、まさに日はまた昇った!

BABYMETALは最高のリスタートを切ることができました。

鞘師とBABYMETALの共演に胸を熱くしたわたしは、早くも次の展開にワクワクしていました。

そして、自分がチケットを押さえているサマソニに鞘師が出演してくれることを強く祈り、その日が来るのを心待ちにする日々が始まったのです。

 

つづく

2019年の鞘師里保とわたし⑧ ~ロンドン編~

前回の記事はこちら!


~目次~

1.第二のホームへの凱旋

グラストンベリーの2日後の7月2日、BABYMETALはロンドンのO2 Academy Brixtonでライブをおこないます。

BABYMETALはイギリスを第二のホームと呼んでいます。
彼女たちの本格的な世界進出の足掛かりとなったのが、イギリスの地だったからです。

有名なソニスフィアの奇跡については、ここでは多くは語りません。
「BABYMETAL ソニスフィア」で検索すれば、あの感動的なライブのエピソードは山のように出てきます。
BABYMETALが世界から認められた瞬間と言っていい、大事件でした。

ソニスフィアに出演した2014年、BABYMETALはイギリスで他にも2回ライブをおこなっています。
その模様は『LIVE IN LONDON -BABYMETAL WORLD TOUR 2014-』という映像作品に収録されています。

このうちのひとつの会場がO2 Academy Brixtonでした。
BABYMETALのアンセムである『Road of Resistance』は、このとき初披露されました。

バンドにとって、新曲をどこで初披露するかというのは大切なポイントです。
メロディックスピードメタルの雄であるDragonForceのメンバーをプレイヤーに迎え入れてレコーディングされたメタルチューン『Road of Resistance』は、間違いなくBABYMETALの勝負曲であり、それまでのキャリアの総決算と言える作品でした。
BABYMETALはこの重要なマイルストーンを、日本ではなくイギリスの地に刻んだのです。
これはさらなる世界進出への意思表示であったはずです。

2019年に再びO2 Academy Brixtonでライブをすることは、BABYMETALにとってきっと特別な意味があったことと思います。
2014年のBABYMETALがソニスフィアを経てO2 Academy Brixtonのステージに立ったように、2019年のBABYMETALはグラストンベリーを経て同ステージに立つのです。
これは第二のホームへの凱旋であると同時に、アベンジャーズ体制のお披露目でもあります。
新生BABYMETALの新たな世界進出が、ここから始まるのです。

2.たまさんの朝は早い

確かこの日のBABYMETALのライブが始まったのは、日本時間で6時ごろだったと記憶しています。

わたしはいつも5時に起床し、6時前に電車に乗ります。
ですから、わたしがこの日のライブの情報をリアルタイムで追ったのは電車のなかでした。

幸い、ファンカムを生配信してくれる現地のメイトがいました。
確か2階席からの映像でした。

グラストンベリーと同じく『メギツネ』で始まったこのライブ。
SU-METALとMOAMETALとともにステージ上に現れたアベンジャーは、またしても鞘師里保でした。

グラストンベリーでは部屋で太ももを叩きながら大喜びしたわたしでしたが、この日は電車のなか。
何事もなかったかのように座席に座り、すました顔でスマホの画面を見るのみ。
落ち着こうと思えば落ち着いていられるじゃないか!

3.瞬間、心、重ねて

このときのパフォーマンスを見てわたしが感じたのは「SU-METAL、MOAMETAL、鞘師里保の3人がようやくひとつのグループになった!」ということ。

BABYMETALのステージに上がるにあたって、鞘師にどの程度準備期間が与えられていたのかはわかりませんが、すでに9年近く続いているグループのなかに入っていくことは、こちらの想像以上に大変なことだったろうと思います。

BABYMETALはBABYMETALの見せ方を確立しています。
鞘師たちアベンジャーズは、そんなBABYMETALの場に入っていくのです。
振り付けを覚えたりライブでの振る舞い方を学んだりすることに加えて、チームとしての呼吸であったり波長であったり、そういう形のないものも合わせていかねばならなかったはずです。

横浜アリーナグラストンベリーでのSU-METALとMOAMETALと鞘師は、まだそこまで呼吸や波長を合わせきれていなかったような印象があります。
それに比べて、横浜アリーナ2日目の藤平華乃が踊るBABYMETALは、すでにある程度チーム感が感じられました。

これはブランクの有無からくる違いなのか、歩んできた道筋(流派)の違いによるものなのかはわかりません。
あるいは、わたしが鞘師ファンであるがゆえにフラットには見られなかった可能性もあります。
ともかく、BABYMETALと鞘師の組み合わせは異質なもの同士がぶつかり合うダイナミズムがあり、そこから新しいものが生み出されていくようなワクワクをわたしは感じていました。

しかし、O2 Academy Brixtonでの3人は、それまでとはイメージを一新し、ひとつのグループへと練り上げられているように見えました。

特にそれを感じたのは『シンコペーション』でした。

前奏のリズミカルでタイトなダンスは、3人が同じ方向を見据えてひたむきに走り出したかのようで、感動的な疾走感があります。
グラストンベリーの大舞台を乗り越えたことにより、3人それぞれの定める照準がシンクロしてきたのかもしれません。

これには鞘師の努力があったことはもちろんですが、BABYMETALの2人、とりわけMOAMETALの努力が大きかったはずです。

彼女はのちに、公演ごとにダンスの相方が変わることの難しさについて語っています。
スタイルの違う3人に合わせて踊ってみせた2019年のMOAMETALは、険しい道を進み、新たな発見と成長を繰り返してきたはずです。

今振り返って思うのは、このころはアベンジャーズの黎明期だったのだろうということ。
新しいBABYMETALの土台が、この時期に形作られていったのだろうと思います。

4.名古屋へ

第2のホームでの凱旋を終えたBABYMETALは、4日後に名古屋でおこなわれる2days公演のために帰国します。
今度はMOAMETALの地元凱旋です。
わずか1週間強でイギリス2公演を含む6本のライブをするという超過密スケジュール。

アベンジャーズ体制のBABYMETALのスタートダッシュは、ここから総仕上げに入っていくことになります。


つづく!

“一部”にならない佐藤優樹 ~2019年の鞘師里保とわたし・番外編~

「2019年の鞘師里保とわたし」というシリーズは、その名の通り、鞘師の1年間の足跡をわたし自身の体験を交えながら振り返っていくものです。

当時を思い返すと書きたいことはたくさん出てくるのですが、あまりいろいろな方面へ手を伸ばすと収集がつかなくなってしまうため、できるだけ話の筋から外れすぎないようにと、取捨選択しながら書いています(それでもだいぶ脇道に逸れていますが 笑)。

今回の記事は「番外編」と題して、メインのパートには入らない話題を取り上げたいと思います。スピンオフの感覚で読んでいただけたら嬉しいです。時系列で言うと、ひなフェスのころにあたります。

ひなフェスについて書いた記事はこちら!

今回は鞘師には脇役に下がってもらいます。

代わりにこのお話の主人公になるのは、モーニング娘。'20の佐藤 優樹(さとう まさき)です。ひなフェスと鞘師里保にまつわる彼女のエピソードを通して、その苦悩と魅力について語っていきたいと思います。

 

“一部”にならない佐藤優樹

 ~目次~

 

 

1.佐藤優樹ってどんな人?

まずは、佐藤優樹のことを知らない方に向けて、彼女について紹介をしたいと思います。

すでに何回か書いていることですが、彼女は現役モーニング娘。のメンバーの中の、わたしの推しメンです。いつもは「まーちゃん」または「まー」と呼んでいるのですが、今回は「佐藤優樹」または「佐藤」という呼び名を用いることにします。本人は「佐藤」と呼ばれることを嫌がっている節があるので、心苦しいなと思いつつ……。

 

① 現役ハロプロ人気ナンバーワン

佐藤優樹モーニング娘。の10期メンバー。

現在のモーニング娘。さらにはハロー!プロジェクトにおいて、圧倒的な人気を誇っている、花方メンバーのひとりです。

佐藤のファンの特徴として興味深いのは、女性が多いことです。ハロプロは近年、女性から高い支持を獲得しており、コンサート会場では女性の姿を多く見かけます。

が、佐藤のファンはその傾向がより際立っています。イベントの客層やTwitter上での佐藤優樹関連のツイートを見たところ、彼女のファンは男性よりも女性の方が多そうに思われます。同性からの支持が、ハロプロ内での彼女の頭ひとつ抜けた人気に繋がっているのかもしれません。

佐藤はハロプロにおける人気面で、このように異質の存在感を放っているメンバーなのです。

 

② 加入当初は問題児!?

佐藤は、2011年におこなわれた『元気印』オーディションに合格し、同年9月29日、ファンの前にお披露目されました。まだ小学6年生のころのことでした。

このオーディションの応募総数は約6000人。合格して10期メンバーになれたのはわずか4人だったので、狭き門をくぐり抜けてモーニング娘。に加入したわけです。

と聞くと、佐藤のことを圧倒的なアイドル性や超絶スキルを持った、モーニング娘。愛に満ち溢れた少女だったと思う方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、実際はそうではありません。アイドル性はともかくとして、歌もダンスも未経験の素人加入。オーディションを受けた理由は、親に勧められたから。当時はモーニング娘。のメンバーも楽曲もなにひとつ知らないまま、グループの中に入っていったそうです。

そんなメンバーでも、殊勝に努力を重ねていくことで人気や実力を身につけていくのが、アイドルのサクセスストーリー。

佐藤もそのような道を歩んでいったのかと言うと、それもまた違います。佐藤は加入してからしばらくのあいだ、モーニング娘。での活動がお仕事であるという意識を持っておらず、習いごと感覚で日々を過ごしていたそうです。

彼女は、スタッフや先輩、はたまた同期からも叱られることが多かったそうです。独特な感性の持ち主である佐藤は、叱られても響かない、すぐにふざける、嘘を吐く、いたずらをする、悪いことをしても謝らない、わがままを言う、すぐにむくれるなど、かなり手のかかる子どもだったようです。

辻加護以来の問題児」

佐藤はいつしかそんな風に呼ばれるようになっていきます。

そんな彼女がどうして、圧倒的人気を誇る花方メンバーになれたのでしょうか?

 

③ 困ったちゃんはセンスの塊

徹底的に困ったちゃんな佐藤優樹でしたが、彼女は非凡なセンスの持ち主でした。

先ほど、彼女はモーニング娘。の活動を習いごと感覚で取り組んでいたと書きましたが、考えてみればこれはすごいことです。本人は習いごとのつもりでいたかもしれませんが、複雑な振り付けを覚え、ダイナミックなフォーメーション移動についていき、ちゃんと歌割も与えられていました(失敗を重ねながらではありましたけれども)。そして、コンサートを初めとしたさまざまな活動を、つまりは激務を、グループのメンバーの一員としてこなしていたのです。

佐藤のオーディション時のエピソードとしてよく語られるのが、合宿審査のとき、深夜に旅館で鬼ごっこをして遊んでいたことです。多くの候補者たちが寝る間を惜しんで歌やダンスの確認をしている中、彼女は全力で遊んでいたのです。これは佐藤の困ったちゃんエピソードの代表格なのですが、見方を変えると、ギリギリまで努力を重ねていた候補者たちを押し退けて、彼女は遊びながら余裕で合格したことになります。

こうした資質をもっていたからこそ、スタッフやメンバーたちは真剣に佐藤と向き合ってきたのではないかと思います。

佐藤の習いごとはただの習いごとではありません。モーニング娘。のメンバーとして光り輝くための英才教育です。彼女は天真爛漫に遊びながら、自らのもつ才能をベースに、モーニング娘。の活動を通してさまざまなものを吸収していき、着実に実力を蓄えていったのです。

 

気まぐれプリンセスの覚醒

佐藤がステージ上で放つ輝きは、次第に鮮烈なものへと変わっていきます。彼女はあるときからギアを上げ、覚醒を繰り返し、いまのポジションへと至る階段を上がっていくことになります。

そのタイミングがいつだったか、というのは明確に断言するのが難しいところですが、彼女自身は、2016年あたりからお仕事としてモーニング娘。の活動を捉えるようになったと語っています(お仕事なので、いたずらをしなくなったそうです 笑)。

モーニング娘。は2014年に道重さゆみが、2015年に鞘師里保が卒業します。絶対的リーダーと絶対的エースの不在。この危機とも言える事態を乗り越えるために、佐藤は2016年ごろから活動に対する意識を大きく変えていったのだとわたしは思います。

彼女はこの時期、モーニング娘。についての思索を深めていきます。

 

みにしげさん(道重)からメンバーひとりひとりがもらった一輪の薔薇の花を、みんなで花束にしたい。

やっさん(鞘師)が抜けた穴を埋めるのではなく、そこに木を伸ばしたい。

 

佐藤独特の言語感覚から生まれた、これらの一見変わった言葉は、不思議と胸を打ちます。

モーニング娘。のことを真剣に考え、自分にできることを見つけては真摯に打ち込み、愚直なまでに努力を重ねていくうちに、彼女がもともと持っていたセンスはステージ上で次々に花開いていったのでしょう。

 

⑤ 圧倒的な個の力

佐藤のパフォーマンスの魅力は、正確で細かいリズム取りと自由な発想力にあります。見せ場が来たら一瞬のうちにステージを自分の色で染める、不思議な魔力を自由に使いこなしてみせます。

ひとりだけ別の宇宙に存在しているのではないかと思われるほどの、圧倒的な個の力。我が道を往く大胆なオリジナリティー。奇抜ながらも瑞々しい感性。音楽のより奥深いところへ入りこんでゆこうとする探求心。

佐藤優樹がステージ上で見せるクリエイティブな才覚は、他の誰にも真似のできないものだと言えるでしょう。

今でも子どものころのようなちょっと困った天真爛漫さを残しながらも、ときに聞いている側がハッとさせられるような深い洞察に満ちた言葉を口にし、自分を大きく見せることなく悩みや迷いを率直にさらけ出し、ステージ上では圧巻のパフォーマンスを見せつける佐藤優樹。数多くのファンたちが愛してやまない彼女の特質は、こんなところにあるのだと思います。

 

 

2.ひなフェスの鞘師里保佐藤優樹

① 女王の帰還

舞台は2019年に移ります。

3月30日に幕張メッセで開催されたひなフェスで、かつての絶対的エース、鞘師里保が衝撃的な復活を果たしました。2015年12月31日にモーニング娘。を卒業して以来、3年3ヶ月ぶりにファンの前に姿を現したのです。

このひなフェスで鞘師里保は、現役メンバーの譜久村聖生田衣梨奈石田亜佑美佐藤優樹小田さくらとともに、『Only you』と『One・Two・Three』を披露します。さらに、新垣里沙道重さゆみモーニング娘。'19現役メンバー全員とともに『Fantasyが始まる』を披露します。

彼女たちの圧巻のステージに、幕張メッセは大いに沸き上がりました。

この日は鞘師にとってきっと特別なものになったことと思いますが、同時に、現役のハロプロメンバーたちにとっても、非常に印象深い1日になったのではないでしょうか。ハロプロのレジェンドである鞘師里保の復活に立ち会い、そのパフォーマンスを目の当たりにすることができたのですから(また、ここでは詳しく触れませんが、辻希美加護亜依のユニット、Wの復活という大きな出来事もありました)。

多くのメンバーが鞘師とのツーショット写真を撮りたがり、彼女の前には順番を待つメンバーの長い長い列ができたと言います。かくして、この日以降のハロプロメンバーのブログには、鞘師の写真が数多くアップされていくことになります。

 

② こんなサトーでも“一部”に見える?

佐藤優樹も、鞘師との写真を4月5日のブログに上げています。

鞘師と佐藤が抱き合う写真は、今でもファンから深く愛されています。これは道重さゆみが撮影したものだそうです。

ところで、このブログでわたしは気になる言葉に出会いました。引用します。

やっさんがステージに立つと。

 


こんなサトーでも

 


一部に見えるといいますか。

 


お願い…みんなわかって…

「やっさん」というのは、佐藤が用いる鞘師の呼び名です。

この言葉を裏返せば、彼女は普段の自分はグループの「一部」になれていないと感じているということになります。ここにわたしは引っかかりました。佐藤がここに書いている「一部」とは、いったいどういう意味なのでしょうか?

 

③ 元エースは今なお絶対的エース

わたしはこの言葉を「普段はステージで浮いてしまっているサトーでも、やっさんがいればステージの一部として溶け込んで見える」という意味に受け取りました。

ひなフェスのステージでの、鞘師をセンターに据えた9~11期メンバーの混成チームは、驚くほど座りがよく見えました。

佐藤優樹を含む9~11期の現役メンバーたちは、ハロプロの中ではベテランとされるキャリアを持っています。一癖も二癖もある個性とストイックな向上心を武器に、それぞれが長年をかけて自分の見せ方を確立しており、それぞれのやり方で観客を驚嘆させることのできる精鋭たちです。特定のエースポジションを置かない現在のモーニング娘。は、個性的なメンバーたちが各々の長所を活かし合い、おもちゃ箱のようにあの手この手でステージを彩っていくところに、魅力があると思います。

しかし、そこに鞘師が加わると、まるで強力な磁場が発生したかのようにステージが統率の取れたものに変化して見えてきます。こう言うと語弊があるかもしれませんが、明確な核が生まれることで、パフォーマンス全体が鞘師里保のカラーに染まるのです。これは、鞘師のカリスマ性とハイレベルなパフォーマンススキルのなせる技でしょう。3年3ヶ月のブランクを経てもなお、鞘師里保は絶対的エースとしての存在感を失うことはなかったのです。

わたしはひなフェスのステージからそんな印象を受けていたので、佐藤のブログでの言葉を上述のように理解したのです。鞘師がステージの核を担うことによって「こんなサトーでも一部に見える」のだと、佐藤は感じたのかもしれません。

 

④ “期待を裏切らないみんなを引っ張る力”

佐藤はひなフェスから2ヶ月ほどが過ぎた2019年6月8日に、こんなブログを投稿しています。

これまで卒業を見届けてきたメンバーたちに思いを馳せながら、この年の春ツアーの武道館公演を振り返る内容です。ここで、佐藤は鞘師について、このように書いています。

やっさんの卒業


これはmasakiの勝手な妄想ですが…


メンバーみんなに変わって欲しいもっといろんな角度があるということを知って欲しいって言う


やっさんのモーニング娘。愛を感じた時


この時やっさんが感じてた抱えてた


期待を裏切らない


みんなを引っ張る力


の偉大さを


知った

佐藤が感じ取った、鞘師の熱い思いが綴られています。そして佐藤は、鞘師里保の持つ力をこのように言い表します。

「期待を裏切らないみんなを引っ張る力」

これは2015年の鞘師の卒業時を思い返して書かれたフレーズですが、佐藤はこの言葉を選びながら、つい2ヶ月前にひなフェスのステージで見た、鞘師の偉大な背中を瞼の裏に浮かべていたのではないかと、わたしには思われてなりません。

 

 

3.“一部”になれない佐藤優樹

① “他の人とは違う”魅力

それにしても、佐藤が「自分は一部になれていない」と感じ、そのことを気にしているのだとしたら、意外な気がします。それはわたしが、佐藤の圧倒的な個の力や大胆なオリジナリティーに魅力を感じてきたからです。

“他の人と違う”ことは、間違いなく佐藤の武器です。彼女の天真爛漫でユニークなキャラクターは、多くのファンから支持されています。そしてそれは、驚きと独自性に満ちたパフォーマンスの原動力であるはずです。

佐藤ほどオリジナリティー溢れるパフォーマンスができるメンバーならば、「観客は自分だけを見ていればいい」というような強いエゴを持っていても不思議ではありません。「一部」になれなくてなにが悪い! そんな風に思っていてもおかしくはないでしょう。

もちろん、ステージに立つ者としての我の強さや負けん気は人一倍強いはずです。しかし、上に挙げた彼女のブログの言葉を読むと、それだけではなさそうに思われてきます。

 

② “変わった子だねって言われるのは大嫌い”

佐藤は「tiny tiny」というYouTubeトーク番組に出演した際に、こんな発言をしています。

「優樹ちゃんてすごい不思議だね」とか「変わった子だね」って言われるの昔からだいっきらいだったんですけど、20才になって、もう今は恐怖症になっています。逆に。

言われたくなさすぎて、なんて言うんだろう、なんか、鳥肌が立つとまでは言わないんですけど、「あ、また言われちゃったな」みたいに。

――tiny tiny#98【2019年9月20日公開】よりhttps://youtu.be/STun1uDAfzg

彼女のファンの中で、この言葉にショックを受けた者はきっと少なくなかったでしょう。佐藤優樹という人物の他の誰とも違うユニークな個性を愛してきたのに、本人は“他の人と違う”と指摘されることに恐怖を抱いてきたというのです。佐藤のこれまでの発言や振る舞いからこういった思いを察してきた人もいたと思いますが、彼女がここまではっきりと自分の気持ちを吐露したのは、わたしの知る限り初めてのことでした。佐藤の心の奥にある孤独の縁が見えてくる、生々しい言葉です。

彼女は「一部」になれないことに、コンプレックスを感じてきたのかもしれません。そして、そのような自意識を持っているからこそ、鞘師里保といっしょにひなフェスのステージに立ったとき、自分が「一部」になれたことを喜ばしく思ったのかもしれません。

無論、ひなフェスのブログではステージについて、「tiny tiny」ではパーソナリティーについて語っているので、両者を安易に結びつけるのは早計です。しかし、“他の人と違う”ことを手放しによいものとしては見なさない彼女の価値観は、双方を貫いているものなのだと、わたしは思います。

 

 

4.チームプレイヤー佐藤優樹

① 21才の佐藤優樹

先日わたしはZepp DiverCityでおこなわれた佐藤優樹の21才のバースデーイベントに参加してきました。本来なら誕生日当日の5月7日にZepp Tokyoでおこなわれるはずだったイベントですが、コロナ禍の影響でいったん延期に。一時は「今年のバースデーイベントはできないかもしれない」と落胆しておりましたが、無事に8月26日に開催となったわけです。

21才の佐藤優樹はこれまでとは違う。

誕生日前後あたりに投稿された一連のブログを読んで、わたしはそのような印象を抱いていました。ここではそのひとつひとつについて詳しくは取り上げませんが、新型コロナウイルスの流行により活動が大幅に制限される中、彼女の感性はそうした状況に否応なく影響を受け、自粛期間を自分自身を見つめ直す時間として捉えて、今後どのように自分を変化させていくべきなのかという青写真を描き出していったように感じます。

そして、長い黒髪を茶色く染めて、バッサリと短く切り落とします。本人は「枝毛をなくすために切った」と発言しているようですが、この行動には彼女の心境の変化や今後に向けての決意が表れているように思われてなりません。

活動が再開されてからの佐藤のパフォーマンスは、以前とは質の異なるものであるとわたしは感じています。2020年のバースデーイベントでのパフォーマンスや言動にも、それは色濃く表れていました。この話題については語り出したらキリがないので、いつか別記事として書くかもしれません。

 

② 自粛期間の過ごし方

さて、わたしが参加したのはバースデーイベントの1部だったのですが、2部の方で佐藤は興味深い発言をしています。それは次のような内容でした。

  • 自粛期間中、春におこなわれるはずだったツアー「MOMM」のゲネプロの映像を見ていた。
  • 自分自身のパフォーマンスだけではなく、メンバーひとりひとりのソロアングルやマイク音源もフルで視聴したので、長時間を要した。
  • 他のメンバーの歌やダンスから、自分がうまく合わせられていないポイントを見つけ出し、どうすれば修正できるかを考えていった。

わたし自身がその場にいたわけではなく、Twitterのレポを繋ぎ合わせた情報なので、細かいニュアンスは違っているかもしれませんが、おおよそこのような内容だったようです。

ここで語られた佐藤のストイックな行動は、自分自身のパフォーマンスだけをよくするためのものではなく、グループ全体のパフォーマンスを向上させるためのものです。全体をよりよくするために自分はなにをしたらいいのか、ということに取り組んでいたのです。

このエピソードから見えてくるのは、佐藤のマインドがチームプレイヤーであることです。自身のパフォーマンスを「単品」として捉えているのではなく、グループの「一部」であると捉えているのでしょう。

 

モーニング娘。への愛

チームプレイへの意識は、佐藤に限らずモーニング娘。のどのメンバーも強く持っているものだと思います。それは、モーニング娘。が長い歴史をかけて、メンバーからメンバーへとたすきを繋いで受け継いできた哲学であり、現役メンバーたちが長い時間をかけて取り組んできたフォーメーションダンスに求められる技術でもあります。

佐藤のチームプレイへの志向性はおそらく、小学6年生のときからモーニング娘。で受けてきた教育によって育まれたものです。習いごと感覚で活動をしてきた佐藤は、モーニング娘。伝統のチームプレイの哲学と、フォーメーションダンスでの集合体としての見せ方を、文字通り素直に習い、自身の価値観へと内面化してきたのでしょう。

佐藤優樹は一見まわりの言葉に囚われず自由奔放に生きているようですが、完全なる一匹狼ではありません。彼女の中を貫いている価値観は、モーニング娘。への愛です。

だからこそ、個性の飛び抜けた自分がうまく「一部」になれないことを思い悩み、「一部」になってグループに貢献していきたいという気持ちが強いのだと思います。

佐藤は将来ソロの歌手になりたいとは思わないと語っています。また、自分が活動を続けてこられたのはモーニング娘。のメンバーたちに支えられてきたおかげであり、自分ひとりではやってこられなかっただろうとも言っています。

強烈な個の力を有する佐藤ですが、彼女がステージ上で見せたいものは、“佐藤優樹”という個人のパフォーマンスではなく、モーニング娘。というグループ全体の歌とダンス、そして音楽なのです。彼女が表現者として目指しているのは、間違いなくモーニング娘。の「一部」であることであり、そして、それによってモーニング娘。がより魅力的なグループになっていくことなのだと思います。

 

 

5.“一部”にならない佐藤優樹

① 名リーダー譜久村聖

佐藤のパフォーマンスに憧れていると公言するハロプロメンバーは少なくありません。

以前はよくコンサートのあとの反省会で、彼女は他のメンバーと違う動きをしていることをダメ出しされていたようです。しかし、グループの「一部」たらんと調整を繰り返してきた彼女のパフォーマンスは、今やひとつのスタイルとして他のメンバーから認められています。

ハロプロメンバーからもファンからも支持されている佐藤のパフォーマンスは、もはやモーニング娘。にはなくてはならないものになったと言えるでしょう。モーニング娘。は佐藤の独創性を武器にしているのです。

それを可能にした要因のひとつに、現リーダー譜久村聖の方針があったように思います。

譜久村は高橋愛のように自らが先陣を切ってグループを引っ張っていくタイプのリーダーではありません。いかにメンバーのよいところを引き出すか。それをどうやってモーニング娘。の魅力に繋げていくか。つまりは、いかにしてメンバーの個性を認めるか。

このメンバーの個を活かす視点が、彼女の持つリーダーとしての優れた特徴なのだと思います。そのために、譜久村は自分の目でもってメンバーひとりひとりの魅力を見定めてきたことでしょう。

譜久村は自由奔放な佐藤をどのように扱ったらいいのか悩んだ時期もあったようです。しかし、それでも接し方を模索しながら粘り強く彼女と向き合ってきたのでしょう。

そして今、譜久村は佐藤の個性をグループの彩りとして捉え、そのキャラクターとパフォーマンスをモーニング娘。の武器と見なしているように思われます。

 

② 多様性のフォーメーション

2020年1月にリリースされた『KOKORO & KARADA』でメインボーカルを任されているのは、譜久村聖佐藤優樹小田さくらの3人。

かつての鞘師里保のようなひとりのエースを置くのではなく、それぞれのメンバーのよいところを積極的に重ね合わせて、グループとしての魅力を形作っていく。これは“鞘師以後”という危機の時代を乗り越えて、モーニング娘。が辿り着いたひとつの答えです。メンバーの個性を解放し、その魅力の全てをグループとしての魅力に包み込んでいくのが、譜久村聖体制のグループの形です。

多様性のフォーメーションとでも呼びたくなるような今のモーニング娘。において、佐藤の独創性は見事にはまっています。

佐藤は、飛び抜けた個性によって「一部」になれないことを悩みながらも、グループの「一部」であろうと努力と試行錯誤を繰り返してきました。そして、モーニング娘。はメンバーたちの多様な個性をグループの「一部」として包み込み、尊重することで、その魅力を増幅させる方向へと進んできました。両者の置かれた状況がうまく重なり合ったことで、佐藤優樹の持つ特質は、モーニング娘。というグループにおいて最大限に発揮されるに至ったのです。

 

③ “一部”にならなくても“一部”でいられる場所

佐藤にとってモーニング娘。は、きっと特別な場所です。「変わった子」だと言われることに恐怖してきた佐藤ですが、メンバーたちといっしょにいるときのオフショットの彼女は、のびのびとしているように見えます。

これは完全に私見になるのですが、2017年前後の佐藤は、今に比べると硬い表情をしていた印象があります。彼女が人間的に成長し、周囲の人との関わり方を工夫していくにつれて、そしてパフォーマンスの評価が確立されるに従って、グループがリラックスできる場に変わっていったのかもしれません(対人関係についての彼女の洞察と知恵は、2020年のバースデーイベントでのお悩み相談のコーナーで、ファンが驚くほど存分に発揮されていました)。

後輩をはじめとした他のメンバーたちから、佐藤は尊敬され、愛されています。人から認められ、受け入れられることで、彼女の内面は穏やかさを取り戻していったようにわたしは思います。

「一部」になれないことについての佐藤の内なる憂鬱は消えたわけではなく、これからも持続していくものなのかもしれません。けれども、少なくとも外から見ている範囲では、彼女にとってモーニング娘。という居場所はそういったネガティブな思いを和らげてくれるもののように感じられます。

佐藤は「一部」になれない苦悩から目を背けずに努力を積み重ねてきたことによって、「一部」にならなくても「一部」でいられる場所を手に入れることができたのだと、わたしは思っています。

 

 

6.おわりに

佐藤優樹のファンの中には、彼女が容易に集団の「一部」になれずにいることにシンパシーを感じている人が少なくないように思います。周囲にうまく合わせることができず、だからと言って開き直って集団に背を向けることもできず、自分と他者との間に違和を抱えながら生きていく者は、社会の中に常に一定数存在するはずです。かく言うわたし自身も、そういったタイプの人間です。

そのようなメンタリティーを持つ者の目に、佐藤優樹の姿は非常に眩しく映ります。そして、強烈な憧れを引き起こします。彼女が周囲に迎合せず自分の道を貫いているところや、しっかりと結果を残しているところ、そして多くの人から認められて自分の居場所を作り出しているところ。そういった佐藤の魅力に触れるたびに「自分もこんな風になりたい」という思いを抱くのです。

佐藤はよく「努力」という言葉を口にします。彼女はなにもせずに今のポジションに辿り着いたわけではありません。モーニング娘。に相応しいメンバーになり、敬愛するつんく♂の楽曲を世の中に届けていくために、尋常ではない努力をしてきたことと思います。個としての独創性を磨きながらも、グループの「一部」としてモーニング娘。を高めていくという、矛盾を内包した険しい道を歩んできたことでしょう。

そして、決して現状に甘んじることのない彼女は、自分自身が思い描く理想形にさらに近づいていくために、今こうしている間も、さらなる努力に励んでいるはずです。

だから、佐藤優樹を見ていて思うのです。自分もがんばろう、と。うまく世の中に馴染めずにいる自分自身が抱える違和も、努力を重ねていけば輝きを放つことができるのではないか、と。

そして、身体に力がみなぎってくるのです。

 

ここまで長らく「佐藤」という呼び名を使って書いてきたのは、できるだけ中立的に佐藤優樹のことを語りたいと思っていたからなのですが、推しのバイアスを完全に取り払うことは難しかったです。

 

だから、最後に素直に叫びます。

 

 

まーちゃんは強さと勇気をくれる!!

 

 

わたしにとっての佐藤優樹の魅力は、このことに尽きるのです。

 

 

2019年の鞘師里保とわたし⑦ ~グラストンベリー編~

前回の記事はこちら!

 

 

グラストンベリー

 ~目次~

 

 

 

1.情熱のパパヤ!!

 

せーの!

 

 

 

 

 

 

パパヤーー!!!!\(^^)/

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

…………ハイ。

というわけで、パパヤです!

 

グラストンベリーについて書くんじゃないのか?

そう思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、

 

 

そんなことより、パパヤです!!

 

 

 

このMVの映像は、前回の記事で取り上げた横浜アリーナ公演2日目のものです。

 

情熱と情熱のあいだを行き来する熱いパフォーマンスに、火花は飛び散るは、炎は上がるは!

フロアも熱狂の渦と化しています。

 

ここには情熱しかありません!!

 

このときのアベンジャーは藤平華乃

わたしが藤平華乃の必勝パターン」と呼んでいる挑発的なキメ顔は、2コーラス目のサビ終わり、2:20辺りから見ることができます。

どうです? めちゃくちゃホット!!

 

この曲PA PA YA!!(feat. F.HERO)』は、横浜アリーナ公演の初日にあたる2019年6月28日に配信が開始されました。

 

わたしは仕事終わりに横浜アリーナへ駆けつけるのに必死で、この配信曲を聴いたのは終演後だったのですが、会場に集まったメイトの多くは昼間に聴き、その日のライブで初披露を目にしたことかと思います。

おもしろい仕掛け方ですね。

 

初披露、と書きましたが、ただ楽曲を初披露しただけではなく、特別な演出がなされました。

 

MVをご覧いただければ分かると思いますが、上に書いた2コーラス目のサビ終わりのシーンで、メインステージになにやら屈強そうな男がせりあがって来るではありませんか。

 

そして、何語だか分からないアグレッシブなラップをぶちかましてくるのです。

あの迫力! あの情熱! あの炎!

圧倒されてしまいます。

 

彼の名は、F.HERO。

タイ人のラッパーです。

あのラップはタイ語だったのです。

 

彼が横浜アリーナのステージに立つまでには、さまざまな苦悩があったそうです。

しかし、そういったネガティブな思いに打ち勝って、あの情熱的なパフォーマンスを横浜アリーナに叩きつけてくれたのです。

 

ここではその詳細には触れませんが、興味のある方は、こちらをご覧ください。

 

わたしは鞘師里保に焦点を当ててこの文章を書いていますが、BABYMETALに関わってきた人たちには、それぞれに熱い物語があるのだなと感じさせられます。

 

PA PA YA!!』は2019年のBABYMETALの、お祭り盛り上げソング。

盆踊り風の振り付けが、シュールかつかわいらしく、いかにもBABYMETALなコミカルな雰囲気を醸し出しています。

 

彼女たちは各国の行った先々で、この曲を披露し、世界中に情熱フィーバーを巻き起こしていくことになります。

 

この年の10月、BABYMETALは3rdアルバムをリリースし、数多くの新曲をわたしたちに届けてくれましたが、

そんななかでも『PA PA YA!!』はライブの定番曲として、2019年を代表する1曲へと育っていくことになります。

 

 

それではみなさん、いきますよ?

準備はいいですか?

 

 

せーの!

 

 

 

パパヤーー!!!!\(^^)/

 

 

 

ハイ! よくできました!!

(『LILIUM』のマーガレット風)

 

 

(『LILIUM』っていうのはハロプロのお芝居で、マーガレットっていうのは佐藤優樹が演じたキャラクターです 笑)

 

 

 

 

 

2.伝統のグラストンベリー・フェスティバル

ちょっとはっちゃけてしまいましたが、さて、ここからが本題です。

 

2019年6月30日、BABYMETALはグラストンベリー・フェスティバルに出演します。

 

グラストンベリーは世界最大規模と謳われる、イギリスの野外音楽フェスです。

初開催は1970年。50年もの歴史があることになります。

 

ステージは約60あり、700ほどのライブが3日間でおこなわれるというのですから、世界最大規模というのも納得です。

 

BABYMETALが出演するのは、OTHER STAGEという2番目に大きなステージです。

 

これまでBABYMETALは、国内外の音楽フェスに数多く出演してきました。

ワンマンのライブならば、観客の大部分は自分たちのファンです。

しかし、フェスは違います。初見の人がたくさん見ている中で、アウェイの戦いをせねばならないのです。

BABYMETALはこれまでのキャリアの中で、そんなアウェイ戦を繰り返してきて、次第に海外での評価を得てきたのです。

 

ですから、グラストンベリーというこれまでとは毛色の違った注目を集める大舞台でも、彼女たちはきっと爪痕を残してくれるに違いないと、BABYMETALのファンたちは期待に胸を膨らませていました。

 

 

アベンジャーズは誰?

グラストンベリーのステージに立つアベンジャーはいったい誰なのか?

 

この疑問は、BABYMETALやハロプロ(そしておそらく、さくら学院)のファンたちから高い関心を集めていました。

 

もちろん、わたしにとっても、いちばんの注目ポイントはそこにありました。

 

横浜アリーナの2days公演は鞘師里保藤平華乃がアベンジャーを務めたので、グラストンベリーでは第3のアベンジャーが降臨するのではないか?

 

こんな声をよく聞きました。

 

しかし、上に書いた通り、BABYMETALにとってグラストンベリーは大一番です。

ですから、この日を第3のアベンジャーのデビュー戦にするのは、その人がどんなに優れたダンサーであろうとも、負担が大きいのではないかと、わたしには思われました。

BABYMETAL陣営としても、できるだけ博打の要素は排したいはず。

 

となると、鞘師か華乃ちゃんになります。

華乃ちゃんのスキルの高さは横浜アリーナで目の当たりにしましたが、そうは言ってもまだ中学2年生の少女です。

 

と考えると、鞘師登場の可能性が高いのではないか?

 

わたしは期待に胸を躍らせていました。

 

 

青空のグラストンベリー

当日、わたしは早朝に起きて、スマホグラストンベリーの生配信に繋ぎました。

(と言っても、アレな感じの生配信なのですが、まあそこは深くは語るまい)

 

配信がスタートすると、画面には目の覚めるような青空が映し出されました。

ブリティッシュウェザーは見事に快晴となってくれたようです。

 

ステージではサウンドチェックをしているようで、スタッフの無線通話がスマホに接続したイヤフォンから聞こえてきます。

あわただしく会話が展開され、やがてそれが落ち着くと、いよいよBABYMETALのライブが始まります。

 

おもむろに流れてきたのは『メギツネ』の冒頭のコーラス。

そして、黒い衣装に身を包んだ神バンドのメンバーたちと共に、キツネ面を顔にあてたBABYMETALとアベンジャーの3人が登場します。

観客に深々とお辞儀をした3人は、後ろを向いてステージの奥へ下がり、キツネ面を外します。  

 

ステージ上のスクリーンには、

「ARE YOU ALL READY TO HEADBANG?」

の文字がでかでかと映し出されます。

 

そして、オープニングパートが終わるのと同じタイミングで、3人は観客の方へと向き直ります。

 

そこにいたのは、SU-METALとMOAMETAL、

 

そしてこの大舞台に姿を現したアベンジャーは、

 

鞘師里保でした(号泣)

 

 

代わりに太ももを叩け!

わたしは歓喜のあまり叫びだしそうになりましたが、早朝に騒ぐわけにはいきませんから我慢して、代わりに自分の太ももを全力で平手打ちしまくりました。

 

その痛さたるや!

 

しかし、興奮しているから痛みなんかどうでもいいのです。

自分の中に湧き上がってくる喜びをどこかにぶつけないとおかしくなってしまいそうだから、とにかくもう、太ももを叩きまくったのです。

 

(うん、すでに充分おかしくなっている)

 

配信が終わってから着替えるために服を脱いだとき、わたしの太ももは赤々と腫れていました。

だけれども、まったく嫌な気持ちにはなりませんでした。

むしろ、幸せを感じていたのです。

 

だって、鞘師里保のステージを見ることができたのですから!

太ももの1本や2本くらい、屁でもないです!

(なんの話やねん)

 

 

鞘師里保のダンスは鞘師里保のダンス!

太ももの話なんかどうでもいいのです。

(じゃあするな)

 

『メギツネ』のイントロで、両手をキツネの耳に見立てて頭に添える振り付けがあるのですが、そのときの鞘師がもうかわいくてかわいくて!

道重さゆみうさちゃんピースに類似したそのポーズ。これだけで永遠にリピートできます。

鞘師は佐藤優樹と共にうさぎの衣装で道重さゆみのバックダンサーをしたことがありますが、今日はうさぎではなくキツネです!

 

と、もはやなにを話しても脱線してしまうような頭パッパラパーな状態です。

だって、鞘師里保が踊っているのですから。

 

画面に映っているアベンジャーの顔は、どこからどう見ても鞘師里保です。

見間違えるはずなどありません。

やはり横浜アリーナでのわたしの不覚は、黒船現象によるものだったのでしょう。

 

今ようやく、わたしの心は黒船鞘師の存在を受け入れて、無事に開国することができたのです。

やっと来ました、文明開化!

ノックミーアウトナウ!(東京事変ネタ)

 

鞘師は、軽快でリズミカルでありながらも安定感を感じさせるダンスで、ステージ上を動き回ります。

 

BABYMETALとモーニング娘。とでは、楽曲のリズムの取り方やアクセントの入り方が違います。

けれども、一定に流れているはずのリズムを大きくうねらせていくかのような鞘師のダンスは、間違いなく鞘師のダンスで、画面の中の鞘師は、まさにそんな鞘師のダンスを踊っていました!(進◯郎構文)

 

わたしは胸に湧き上がってくる喜びの渦に首をぎゅうぎゅうに締めつけられて、感涙を床にぽたぽた落としながら嗚咽を漏らし、太ももをべちんべちんと盛大に打ちつけまくるのでした。

 

もう、いろんな意味でヤバい!!

 

 

再び、情熱のパパヤ!!

この日のセットリストは、BABYMETALのライブの鉄板曲が中心でした。

グラストンベリーという大一番に、彼女たちは百戦錬磨をくぐり抜けてきた安定の布陣で挑んだわけです。

 

しかし、2曲だけ新曲が挟み込まれていました。

ひとつめは『Shanti Shanti Shanti』。

横アリで初めて聴いた瞬間に好きになった曲なので、これは嬉しかったです。

 

グラストンベリーはヒッピーカルチャーの文脈に位置づけられるフェスなので、その思想性に響きやすいエスニック色の塊のような『Shanti Shanti Shanti』をぶつけてきたのは、ひとつの戦略だったはずです。

 

実際に観客は盛り上がっていました。

サビ前にMOAMETALと鞘師が音にハメてステップを踏む振りがあるのですが、とてもとてもかっこよく決まっていました。

 

そしてもう1曲は、同じくエスニックな魅力たっぷりの、あの曲です。

お分かりでしょうか?

 

いきますよ?

 

せーの!

 

 

 

パパヤーー!!!!\(^^)/

 

 

 

 

鞘師里保がBABYMETALで踊っている動画のうち、これは最も古いものです(違法に撮影・アップロードされたものは除く)。

横浜アリーナでは謎のヴェールに包まれていた第1のアベンジャーが、ついに白日のもとにさらけ出されたことへの感慨が湧いてきます。

 

BBCが配信しているこの動画は、BABYMETALのファンはもちろん、国内外のハロプロファンの間でも大きな話題を呼びました。

 

世界中のハロプロファンがきっと、この動画を見て「本物の鞘師だ」という実感を抱いたことと思います。

 

語弊を覚悟で書きますが、『PA PA YA!!』という2019年のBABYMETALの新曲は、鞘師里保のファンにとっては、2019年の鞘師の曲になったのです。

と、このように見立てたくなるほど、記憶に残る印象的な映像になりました。

 

このころ鞘師ファンの口からよく聞かれた言葉に、

「鞘師が楽しそうに踊っているならそれでいい」

というものがありました。

 

これはファンの鞘師に対するさまざまな思いからあふれ出てきた言葉だったことと想像しますが、映像の中の鞘師はほんとうに楽しそうです。

晴れやかな笑顔と生き生きとした躍動感。

彼女にとってBABYMETALでの活動は充実感のあるものなんだなと、画面越しに伝わってきます。

 

また、SU-METALとMOAMETAL、神バンドも気持ちの入ったパフォーマンスを見せてくれています。

 

鞘師のファンの中には、この動画を通じてBABYMETALの魅力を知った人も少なくなかったことと思います。

初見の人の胸に響いたのは、パフォーマンスの素晴らしさであったことはもちろんですが、『PA PA YA!!』という楽曲の持つキャッチーさが果たした役割も大きかったのではないでしょうか。

 

このように、さまざまな人たちの思いに響き、その思いと思いとが重なり合わさっていったことにより、『PA PA YA!!』の持つ価値はよりかけがえのないものへと成長していったのだと、わたしは思います。

 

これが、情熱のパパヤです!

 

 

微笑みの天使MOAMETAL

話が前後しますが『Shanti Shanti Shanti』の次に披露された『Distortion』についてのエピソードにも触れたいです。

 

曲間の、インタールードとでも言えばいいんでしょうか、

そのパートで、BABYMETALと鞘師の3人はステージ後方に下がり、後ろを向いて水分補給をします。

そして、曲が始まる直前でスタンバイをするために立ち位置に戻るのですが、その際に、MOAMETALが鞘師の手にそっと触れるのです。

さらに、彼女はSU-METALの手にも触れます。

 

このちょっとした振る舞いから、MOAMETALの人間性が伝わってきます。

 

彼女は人のことをよく見ており、相手のちょっとした変化を見逃さず、先回りして気づかいをする優しさを、これまでいろいろな場面で見せてきました。

BABYMETALが世界を股にかける大規模な活動をしていく中で、彼女の人間性はチームをひとつにするために大きな役割を果たしたことと思います。

 

そんなMOAMETALの人としての温もりが鞘師に向けられているさまを目の当たりにして、わたしは感動しました。

 

BABYMETALは秘密主義を貫いているグループです。

ステージの映像は数多く目にすることができますが、オフショットの彼女たちの様子は、鉄のカーテンに覆われています。

ステージを降りたときの彼女たちが、バックヤードでどのような顔をしてどのような会話をしているのか、ファンたちは窺い知ることができないのです。

 

鞘師は人間関係に器用なタイプとは言えません。

自分の気持ちをうまく表現することも苦手だと思います。

 

グラストンベリーの時点で鞘師は21才ですが、イメージはどうしてもモーニング娘。に在籍していたころの10代のまま。

子どもを見守る親の気分のようで、本人からしたら余計なお世話なのかもしれませんが、わたしは彼女がBABYMETALの中でうまくやれているのだろうかと、いらない心配をしていました。

 

しかし、MOAMETALが鞘師の手に触れる姿を見て、それが杞憂だったことを知りました。

 

いくら元モーニング娘。の絶対的エースと言っても、鞘師はひなフェスで再び表舞台に戻ってくるまで、長期間のブランクを挟んでいます。

そして、アベンジャーとしてデビューしたわずか2日後にグラストンベリーの大舞台に立つという、過酷なスケジュールの只中にいるのです。

彼女が大きなプレッシャーを感じていたことは想像に難くありません。

 

もちろん、そんなプレッシャーすら力に変えるのが鞘師里保なのですけれども、それでも不安は大きかったはずです。

 

ステージ上でMOAMETALが鞘師の手にそっと触れたとき、鞘師がそれをどれだけ心強く感じただろうかと想像すると、胸が熱くなってきます。

 

彼女たちの絆が垣間見えたようで、深く感動しました。

 

 

“限界を感じたときにこそがんばる”

ライブのフィナーレはBABYMETALのアンセムのひとつ『Road of Resistance』でした。

鞘師はこの曲で、残っている力のすべてを出しきろうとするかのような、全力でダイナミックなダンスを見せます。

 

今、そのときの鞘師の姿を見て思い出す言葉があります。

ハロプロのもっとも新しいグループであるBEYOOOOONDSの小林萌花が、2019年8月にラジオで話していたことです。

 

以前、鞘師里保さんにお会いしたときに、メンバーが「体力作りをどうされてましたか?」っていう質問をしてたんですけど、そのときに鞘師里保さんが「限界を感じたときにこそがんばる」って言ってて。

 

これは3月のひなフェスのときのエピソードではないかと思われます。

おそらくこの質問をした人は、鞘師が日ごろしているトレーニングについて聞きたかったのではないかと思います。

しかし、鞘師の答えは「限界を感じたときにこそがんばる」というもの。

彼女の生きざまがありありと見えてくるようで、とてもかっこいいです。

 

『Road of Resistance』の鞘師からは、まさにこの言葉通りの印象を受けます。

実際に体力的な限界にあったのかどうかは分かりませんし、彼女はそんなにヤワではないと思いますが、上に書いたようにブランク明けの強硬日程です。

余裕綽々でステージに立っていたわけではないように思われます。

 

しかし、鞘師はこうした悪条件には負けず、最後は気持ちでねじ伏せてみせるのです。

 

慣れない環境で探り探りパフォーマンスをするのではなく、恐れずにフルスロットルで自分を追い込んでゾーンに突入し、そこからは魂で踊っていく。

仮にこのとき鞘師が限界を迎えていたのだとしても、それは彼女の体力不足やペース配分のミスによるものではなく、彼女自身がそうなるように仕組んだからだと思います。

“限界を感じたときにこそがんばる”自分のことを、鞘師はきっと信頼しているはずです。

すべては、よりよいパフォーマンスを披露するために。

 

わたしは2019年の鞘師のパフォーマンスの中で、このグラストンベリーの『Road of Resistance』がもっとも好きです。

 

このあと世界各地をツアーで回る中で、グループとしても個人としても完成度をどんどん増していき、その姿を見てわたしは感動し続けていくのですが、しかし、グラストンベリーで全力を出しきるように踊る鞘師は、当時の自分の心境とも相まって、いつまでも特別なままです。

 

かくして、BABYMETALはグラストンベリーのステージを完走し、見事に大成功を収めてみせたわけです。

 

 

 

 

 

3.ロンドンへ

これで怒涛の強硬日程は終わり!

とはなりません。

 

BABYMETALはグラストンベリーの2日後に、ロンドンのO2 Academy Brixtonでライブをおこなうのです。

 

止まることなく進み続ける彼女たちを追っていくだけで、目が回りそうになります。

グラストンベリーで感動したばかりだと言うのに、わたしはまたもや「ロンドンのアベンジャーは誰だろう?」というモヤモヤした気持ちへ沈み込んでいくのです。

 

 

続く!